第11話 婚礼~内情4
首相は1時間もしないうちに戻ってきた。
「陛下、申し訳ありませんでした。引継ぎが不十分でした。」
そう言って、尊人の前に座った。既に尊人は王の間におり、小机の前にある玉座に座っていた。
「陛下が男性を好まれるのは想定内でした。お血筋ですので。」
尊人は衝撃を受けた。何を言っている?
「お妃は形だけで良いのです。好いておられなくて結構。そして、お好きな男性をお傍に置いて構わないのです。今もほら、陛下の選ばれたお二人をお傍に置いておいでですよね。もともと宮内庁の方ではそういうつもりだったようでございます。私が聞き及んでおりませんでした。」
首相は、玉座の近くに立っている健斗と未来を見ながらそう言った。
「何を言っているのです。この二人はそういうのではありません。」
尊人はいつもよりも早口で言った。思いもよらぬ事を言われた。顔が熱い。
「子孫を残していただかなくてはなりません。けれども人工授精で構わないのです。今までも、ずっと国王はそうして誕生して来られたのですから。」
尊人は絶句した。今までの国王・・・血筋と言ったか?それでは自分も?人工授精で生まれたと?
「お傍に置かれる男性は、お好きなように選んでいただいて構いません。後々若いのに取り換えていただいても結構。なので、お妃選びに女性の好みなどは無用。お血筋やお人柄、能力など、ビジネスパートナーとして選んでいただきたいのです。」
完全に不意を突かれた。ノックアウトだ。何も考えられない。父と母は愛し合っていたわけではなかった?父は、叔父は、男色だったのか?そして、母や叔母は愛されぬまま、ただ子供を産んで、育てて、公務をこなして・・・。母が不憫に思えてきた。そして、国王というものがここまで人権を無視され、国に利用されていたのかと、更に憎悪が募った。
「首相、とても今はそんな気にはなれません。一度持ち帰っていただきたい。」
尊人は頭を抱えながらそう絞り出した。
「しかし、早急に・・・。」
首相が言いかけたが、健斗がずいと前に出て、尊人と首相の間に立ちはだかった。
「首相、お引き取りを。陛下はお疲れです。」
健斗は少し凄みを効かせてそう言った。首相は渋々立ち上がり、礼をして部屋を出て行った。
「まぁた、格好つけちゃって。」
未来が小さく毒づいた。いつも負ける。先を越される。
首相が言った事は、もちろん健斗と未来にとっても初耳だった。が、尊人がそう言った意味で自分たちを選んだのかもしれない、と思った時にはさすがにドキドキした。尊人は女性に対してあまり興味がありそうでもなかったが、かといって男性に対して恋愛感情を抱いているようにも感じた事がなかった。ただ、未来は健斗に対して、健斗は未来に対して、少し嫉妬心を抱いていた。自分よりも尊人と仲良くしているのではないか、尊人が自分よりもあいつを頼りにしているのではないか、と思う事がしばしばあった。けれども、お気に入りの男子を傍に置いてくれた、その一人が自分かと思ったら、正直喜びを感じずにはいられない。
だが、尊人は自分の出自に関する事で、今はショックを受けている。
「尊人、大丈夫か?」
健斗が無遠慮にも、玉座に座る尊人の肩を抱いた。いつもなら、尊人は健斗にされるがまま、身をゆだねるのだが、先ほどの首相の発言の後である。今は他の目が気になる。同じ部屋に他の近衛兵や宮内庁職員もいるのだ。慌てて健斗の腕を振り払った。
「健斗、お前はデリカシーが無さ過ぎる。」
未来は健斗の腕を引っ張って下がらせた。健斗は豪快だ。ワイルドだ。男前だ。健斗はちょっと頭をかいて後ろへ下がり、未来の横に立った。未来は知的だ。スマートだ。冷静だ。この二人は、尊人の両腕として必要だ。決して慰み者として置いているわけではないのだ。
その夜、尊人の部屋に健斗と未来が久しぶりに二人で訪れた。
「どうするんだ?お妃選び。このままじゃ、お前の意見など聞かずに決められちまうぞ。」
健斗が言った。
「そうだな。そして、お妃を置いたら、俺の意に反して子供が生まれちまうんだろうな。ああ、いやだ。」
尊人は両手で自分を抱きしめて身震いした。それを見て、健斗が立って行って座っている尊人を抱きしめた。
「だから、お前は手が早いんだよ。」
未来が横で腕組みをして、むすっとした顔で言った。尊人はちょっと顔を赤らめた。
「そうだ、お前男と結婚するとか言ってたな?そっちの方が俺は嫌だなあ。形だけのお妃がいる方がましだけど。」
健斗がそのまま尊人の隣に座って、まだ尊人の肩に腕を回したまま言った。
「健斗、お前は尊人にベタベタしすぎだ!ちょっと離れろ。」
未来が健斗を指さしながら言う。健斗はへへっと笑って腕をどけた。
「子孫を残そうが残すまいが、尊人の代で国王制を終わらせれば問題ないんじゃないか?早く尊人の人権を勝ち取って、勝手に子供が誕生したりしない世の中にしないと。」
未来が言った。尊人が頷いた。
翌日、やはり首相は勝手にお妃候補を一人決めてきて、報告に来た。「朝比奈麗良(あさひなれいら)」という女性で、大学教授の娘だった。麗良自身は大学生で、卒業と同時に結婚するのが良いという話だった。国際交流を学んでおり、英語も堪能だという事。また、我が国の文化芸能をいくつもたしなんでおり、外交にはうってつけの人材だという事だった。そして、ここが一番大事だが、穏やかで従順な性格という事だった。気の強い女では、王妃は務まらない。なぜなら、自由意志などほとんどない仕事だから。尊人は、この女性が気の毒で仕方なかったが、ここを覆す力は、今の自分にはないと思い、渋々承諾した。
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