第24話

 冬の夜の冷たい空気が、頬を貫いた。


「それでは、また」


 3人は、一瞬で我々の目の前から消えてしまった。


 神社の拝殿の前で一瞬起こった、

 とても奇妙な出来事だった。


 だが、あれは夢では無かった。その証拠にさくらは回復し、みるみるうちに元気になっていったから。


 久遠様達がさくらの病を治して下さったのだ。


 さくらはすくすくと元気に成長し、大人になっていった。


 いつしか我々は、あれを夢の出来事だった様に感じながら過ごす時間が増えていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……そんな事があったの」


 もし私を抱いた父と母が岩時神社に行かなかったら。久遠様と奥様と大地に会わなかったら。彼らと契約していなかったら。


 私はもしかしたら今、生きてこの世にはいなかったのかも知れない。


 この出会いは、私にとって一番の幸運だったんだ。


「俺はその時の記憶は無いけど。父から聞いた」


「お母様はお元気?」


 母が聞くと、大地は頷いた。


「あちらの世界で元気にしています」


 私は卵を溶いた大地の小鉢に、肉と野菜を入れた。


「もう食べていいよ」


「ありがと。いただきます!」


 大地は慣れない様子で箸を使い、少しずつ肉と野菜を口に入れた。


「…美味い」


「でしょ?これ、私の大好物なの」


 食べる姿の彼が幸せそうになり、私は少しほっとした。


 

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