第3話

 大地は私の腕を引っ張り、引き寄せた。



 そして



 私は彼の腕の中で

 ぎゅっと強く、抱きしめられた。



 …!!



「どうして泣いてんの?お前」



 大地の体に包まれ、

 体が徐々に温かくなっていく。



「俺にだったら、話せるだろ?」



 雨上がりの森の様な、深くてとてもいい香りがする。


 少しずつ、心臓の音が早くなっていく。



「うん」



 年に一度の夏祭り、彼に会えるのがとても楽しみだった。少しどきどきしながら浴衣を選び、普段通りを装いながら一緒に遊んだ。


「聞かせて、さくら」


 私は、久しぶりに会えた大地の背中を、自分からそっと抱きしめ返した。


「うん」





 社務所の前にあるベンチに腰掛け、私は現状を話し出した。彼は私の隣に座り、黙って話を聞いてくれた。


「『コロナウイルス』っていう伝染病が世界中に広がったのは知ってる?」



「…知らない」


 私は別に、大地がこの事を知らなくても驚かなかった。


 彼は何故か、昔からそうだったから。



「高校の卒業式が、無くなっちゃったの。人が集まったら伝染病が広がっちゃうから」


 また、涙が零れ落ちてしまう。


「仕方ないけど、寂しくて」


 みんな毎日迷いながら、生き抜くために色々と考えている。


「…」


 大地はそっと指で私の涙を拭い、苦笑いしながらこう言った。



「泣きすぎ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る