鏡の筒

いよいよ、別れの気配。

別れの刻。


姫は、大切にしている翡翠石を、

旅商人に手渡しながら……

瞳には、みるみると涙が浮かんでは、勝手に溢れてゆく。


「もっと、一緒に遊ぶ」

と言って、ゴネた。

フリではなく、真剣マジメに。ゴネた。

 

旅商人は、

「これまでの御礼と、御返しに……」

と言って、遠国で創られたという、更紗眼鏡という名の筒を取り出し。

姫へ手渡すと。中を覗くよう、促した。


姫は頷き。


言われたとおり、筒の穴に目を置き、中を覗き込む。

「わぁー、きらきらしてるー」

と、筒の中の謎の仕組みに夢中になって、筒をくるくる回しては、

映り動き、切り替わってゆく色模様を観て。はしゃいだ。

どうやら、二度と同じ絵柄には戻らぬようだ。


暫くして ――

筒穴から目を離し、視線を旅商人へと、戻す。

と、その場に、旅商人の姿は無かった。


「やられた……」

幼心に、そう感じたが。

あまりにも颯爽としていて、呆気にとられ、

泣く暇も、跡を追う気力も、失っていた。

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