第二十八話 村と八大天龍

 家を出てから一時間ほど、ビョンド火山が見えてきた。

 道中はディルと料理についてのトークをしていた。

 主にディルの作る謎の物質を何とか料理にしようという話だった。

 

 「見えてきたぞ」

 「すごい高いですね。周りの山が砂山みたいです」


 ビョンド火山はレインと帝国の両方に掛かる高さ三千メートルの大きな山。

 頂上付近には雪が積もっている。


 (富士山みたい...)


 話によると現在は地中深くでのみ火山活動が確認されているらしく、百年は噴火することはないといわれている。

 ちなみに前回の噴火は二百年前。

 ディルとラグハートが戦ったときらしい。


 「一旦帝国側のトルト村によるぞ」

 

 

 ディルは火山のふもとを指さした。


 「はい!」


 スピードを上げて村に向かった。

 

 ・・・

 

 村の入り口にこっそり着地した。


 「村が騒がしいな」

 「そうですね」


 村に入ると男衆が集まり何かを話し合っていた。


 「村長、逃げるしかないぞ!」

 「しかし...」

 

 若い男性が村長と呼ばれている老人にそう言った。

 大の男が今にも泣きだしそうといった表情だ。


 「若けぇのは女連れて逃げな。この村は好きにはさせねぇ」


 肩に小野を担いだ中年の男性が言い放った。

 対立する両者の意見に村人全員の意見も二つに割れた。

 今にも殴り合いのけんかが始まりそうな雰囲気だ。

 私とディルはフードをかぶり大衆の端で不安そうな顔をした女の子に声をかけた。


 「ねぇ、ちょっといいかな」

 「お姉さん誰?」

 

 女の子は手に握ったクマのぬいぐるみを強く握りしめた。


 「私は旅をしてる魔法使いだよ。あなたは?」

 「私は...ソラ」

 「ソラ、今何が起きてるの?」


 ソラによると数日前、たまたま村に商売に来ていた未来視ができるという老婆が最悪の未来を見たらしい。

 老婆が見た未来は二匹の八大天龍によって村が滅ぼされるというものだったらしい。

 そして昨日、ラグハートが復活した。

 その直後、八大天龍の一匹、第八位土龍ジングスがこの火山の一帯を奪おうとやってきたらしい。

 要は領土争いだ。

 目覚めたばかりだがプライドの高いラグハートはその喧嘩を受けたらしい。

 その日は何もなかったが老婆の未来視によると、明日その戦いが起こるとのこと。


 「それはまずいな」


 後ろで建物の陰に隠れていたディルが声を出した。


 「一体でも天変地異を引き起こすといわれる八大天龍が二匹も暴れるとなると被害はこの村だけにとどまらんぞ」


 確かに、一度戦ったことのあるディルが言うのだから間違いない。


 「でも、ディルは一度倒したことがあるんですよね?」

 「あの時はラグハート一体だったからな、今回は二体だ」


 確かにそうだ。

 二体の喧嘩が終わるのを待ってラグハートが死ぬか弱ってくれればらくなのだが、この村はおろか、レインや帝国まで滅びかけない。

 

 「私は見たことがないからわからないんですが、八大天龍が引き起こす天変地異とはどれほどのものなんですか?」

 「ビョンド火山、変な形をしていないか?」


 火山を見直す。

 海の大波のような形をしていた。

 イメージでいうと中華料理屋の鍋の上で焼かれているチャーハンのような形だ。

 

 「確かに」

 「これは二百年前、ラグハートが本気で火を吐いたときにできた山だ。おかげで地形は変わるわ地下深くのマグマが噴き出すわ、とんでもないことになった」



 ...。


 (無理ゲーじゃない?)


 富士山が爆発したみたいな山を作る龍が二体も本気で戦っている戦場に私とディルだけで挑もうなんて。

 

 (逃げようという若者の意見は正しい。あのおじさんたち、百パー死んじゃうよ)


 「ディル、どうします?」

 「シロネはどうしたいんだ?」

 「話を聞いてしまった以上、この村は守りたいです」


 ディルは深いため息をついた。

 私が誰かが傷つくのが嫌いな性格だとディルは知っている。

 それでももしかしてと思って聞いてきた。

 そして私はディルにとって一番最悪な道を選んだ。

 ため息をつかれるのも当然だ。


 「作戦を立てよう...」

 「はい」


 目標は村の守護、八大天龍二匹の討伐、そしてラグハートの皮入手。

 ビィーンやカルの時の何十倍も大変な作戦会議が始まった。

 

 

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