第十七話 食事所とウィンナー

 私はディルに頼まれ、クロバの後を追って共闘のお誘いをするために帝国に入った。

 帝国は皇帝が軍隊を管理している。

 兵を動かすには皇帝に許可をもらう必要がある。


 「はぁ、ディルが行ったほうが絶対よかったのに!」


 地上から千メートルほど上を「フライ」の魔法を使って飛びながら愚痴をこぼした。

 王都までは徒歩で一日、馬車でも半日近くかかるとディルに聞いた。

 それをなんと「フライ」で最短距離を飛んでいけば二時間ほどで到着してしまうのだ。

 魔法おそるべし。

 ちなみに「フライ」はクラス4の魔法。


 「このまま、空のお散歩を楽しんで帰っちゃダメかな...」


 そんなことを言いながらも、レインの魔族と帝国の人間のために早めに飛んだ。

  レインを出てから一時間ほどとんだところで少し先に小さな町が見えた。


 「喉乾いたしお腹すいた...。寄っていこうかな」

 

 時間はすでに二十時近い。

 お腹もすいたし、クロバと戦ってからここまでずっと飛んできたから疲れた。

 私は村に向かって降下した。

 入口に付近の茂みに着地し、正面から町に入った。


 「わぁ、ファンタジー!」


 異世界転生物の漫画などに出てくる町のように、テントの商店街がずらりと並び、レンガ作りのきれいな建物が並ぶ街並みだった。


 「すごーい、にぎわってる」


 町を見学しながら歩いていると、入り口から少し歩いたところに定食屋があった。

 出発するときに、ディルに帝国の硬貨を少しもらってきたのでお金は大丈夫。


 「どうせならお金だけじゃなくてお昼も持ってこればよかった」


 独り言を言いながらお店に入った。


 「いらっしゃい!あら、かわいいお客さん!」



 店に入ると、すぐに女性の店員さんがあいさつをしてくれた。


 (荒くれ物の酒場、みたいなところじゃなくて良かった)


 「お嬢ちゃん、あっちの席に座ってね、メニューは置いてあるから、注文が決まったら呼んどくれ」

 「はい、ありがとうございます」


 席に座るとメニュー表を見た。


 「今更だけど寄り道しちゃってよかったかな。まぁ、カルたちも休息するって言ってたから、私もちょっとくらい休んでいってもいいよね」


 人間空腹には弱い。

 急いでここまで来た割には空腹に負けてしまうのだった。

 メニューには三種類の定食といくつかのドリンク、そしてセットのサラダとスープが四種類ずつ書かれていた。


 「定食...。魚定食と焼肉定食、パン定食ね」


 ディルに教わって自我読めるようになっててよかった。

 メニューを決めて店員さんを呼んだ。


 「お願いしまーす」

 「はいよ」


 テーブルを片づけていたさっきの店員さんが小走りで寄ってきた。 


 「えっと、パン定食で白菜サラダとオニオンスープで」

 「はーい、ちょっと待っててね」


 日本にあった普通の料理店と同じような要領で注文が終了した。

 よく考えたら、クロバ以外の人間と話すのは初めてだった。

 周りを見てみると、数人の人間がいた。

 鎧を着た兵士のような中年男性や、子ずれのお母さん、牛飼いのような服装の人もいた。


 (魔族と人間が何の隔たりもなくなれば、もっと平和に暮らせるのに...)


 ため息をつきながら待っていると料理が運ばれてきた。


 「お待たせ、パン定食、白菜サラダとオニオンスープだね」

 「ありがとうございます!」


 店員さんはウィンクをして裏へ帰っていった。

 机の上にはパン定食、白菜サラダとオニオンスープそして、ウィンナーが二本つけられていた。


 「サービスかな?ありがたくいただきます」


 水を飲みながらおいしく食事を味わった。


 「あぁ、おいしかった。人間もなかなかやるわね、私も人間だけどね」


 一人で笑いながら会計を済ませ、店を後にした。

 店員さんが、「また来てね。」と言って見送ってくれた。機会があったらまた来たい店になった。


 「ちょっとゆっくりしすぎたかな。早くお王都に行かないと」


 町の入り口に戻り、茂みから再び「フライ」の魔法を唱えた。


 「いざ、帝都へ!」

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