第十五話 魔王と異世界の魔王

クロバが黒煙が上がっている村に状況確認をしに行ってからしばらく時間がたった。

黒煙はさっきよりも勢いを増して来ている。


 「クロバ...大丈夫かな」

 

 私も助けに行きたいけど、勝手に帝国内に入るわけにはいかない。

 状況が分からず、独り言をつぶやいていると背後に気配を感じた。


 「ディル!」

 「シロネか、あれはなんだ」


 背後にいたのが敵ではなくディルだったことに安心した。


 「分かりません、クロバと修行するために森に来ていたんですけど、突然...」

 「クロバは?」

 「村の様子を見に行ってくると、飛び出して行っちゃいました」

 「そうか。シロネの判断は正しい、我々がむやみに帝国に入ってはならないからな」


 しばらく黒煙が上がっている村を眺ていたがクロバ帰ってくる気配がない。

 クロバの心配をしていると、村のほうから沢山の影がこっちに向かってきているのが見えた。


 「なにか来ます」

 「あぁ、あれは...魔族だ」


 村を襲った魔族がこちらに進軍してきた。


 「レインの魔族には、人間に絶対に危害を加えてはならないと言ってある。あいつら、どこの手のものだ」

 「何か、旗のようなものを持ってます」


 魔族達は青布にみどりのひし形と剣が描かれた旗をいくつも掲げていた。

 魔族たちは二百体近い軍勢だった。


 「あいつら、何をするつもりだ。シロネ行くぞ!」

 「はい」


 隠れていた林から飛び出し、魔族の軍勢と川を挟んで対峙した。


 「我が名は魔王ディル・ヴァール。何か用か!」

 「お前がこちらの魔王か」


 集団の中心から魔族の男が姿を表した。


 「俺はカル。異世界より転移してきた魔王だ!」


 帝国の村を襲ったのは異世界の魔王を名乗る魔族だった。

 カルの後ろにはたくさんの魔族が着いている。

 指揮官なのは間違いない。


 「この川よりこちらは魔族の国、レインだ、まさか、あの村みたく襲いに来た、などとは言うまいな」

 「襲う?そんなことするはずないだろ。奪いに来たんだ」

 「何...」


 カルは宣戦布告をしてきた。


 「あちらの国もお前らの国もこの俺がいただく。今日は小手調べに向こうの村を襲撃した。次はお前たちの番だ」


 私とディルは戦闘の準備をした。


 「まぁ。今日は様子見だ、うちの奴らの消耗もある。レインを奪うのはまた次の機会にしてやる」


 カルはそう言うと帝国内の森へ姿を消した。

 ディルはそれを黙って見送った。


 「良かったんですか?ほかって置いたら絶対ろくなことしませんよ」

 「奴らは大部隊、しかもレインの寄せ集め戦力と違い、訓練された精鋭部隊に見えた。今対抗するのは得策ではない」


 カルが率いる魔族達は全員武装していた。

 私とディルはともかくレインの魔族達はさっきまで何事もなく過ごしていたのだ、いきなり戦えるわけがない。


 「そう...ですね。次にきた時のために策を立てておきましょう。」

 「うむ」


 でも、問題はそれだけじゃなかった。

 魔族からの襲撃を受けたことで帝国との間に亀裂が走った。

 ビィーンの件がすみ、安定していた帝国との関係は崩壊し、帝国がレインに復習しようとお兵士を募り始めた。


 「ディル、どうしましょう。このままではレインはカルと帝国、両方を敵に回すことになります」

 「最悪の状況だ。クロバをこちらに呼び、協力してもらおう」

 「異世界の魔族が攻めてきたと、情報を流してもらうんですね」

 「あぁ、だが、その前に、まずはクロバを味方にしなければな」

 「はい?」


 次の瞬間、家の扉が蹴破られた。

 

 「ディル、シロネ、信じてたのに。お前らは優しい魔族だって!」


 ディルの言ったことが理解できた。

 クロバは人間を襲撃した犯人が私達だと勘違いしていた。


 「ずっと騙してたんだな!」


 クロバは剣の柄に手をかけた。

 その眼には涙が浮かんでいた。

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