第十四話 修行と黒煙
「お邪魔しまーす!」
「久しぶり、といっても二日前にも合ったけど」
最近クロバが帝国の情報を報告に来る頻度が増えている気がする。
というか報告せずに一日遊んで帰る日もある気がする。
「今日は何をしに来たんですか?ディルは今外出中なので伝言でよければ承ります」
「今日はシロネに用があるんだ」
この間はトランプをやったけど、今日は何の用だろう。
ちなみにこちらの世界にはトランプというものがなかった。
ディル、クロバと私の三人で神経衰弱やババ抜きをやって楽しんだ。
「一緒に修業しようぜ!」
「なんだ、遊びに来たんじゃなかったんだ」
「俺を何だと思ってるんだ...」
「子ども?」
「うるせえ!」
・・・
外出の準備を済ませ、いつも私が修行で来ているゴブリンが守る森にやってきた。
「シロネです、修業に来ました!」
「グォー」
ゴブリンの許可ももらったので森に入る。
そういえば、勇者であるクロバの実力をちゃんと見るのは初めてだ、いつもは遊んでいるだけだけど、ちゃんと修行してるのかな。
「ねぇ、クロバは今レベルいくつなの?」
「俺はレベル15だ、耐久値とスタミナが1498と924。シロネは?」
「私はレベル17です、体力値と魔力量は1765と1026です。クロバより私のほうが強いということですね」
「クソーなんでなんだ!」
遊んでるからでしょうね。
この世界に来てからまだ一月ほどしかたっていない。
カーストの書による効果か、魔王後継者になった影響か。
理由はわからないけど成長速度が一般人の数倍くらい早い。
勇者であるクロバもそうなのだと思う、レベルの上昇速度がだいたい同じなのはその影響だと思う。
「しゃ!頑張って修行するぜ!シロネに負けるのは嫌だからな。シロネはいつもどんな修行をしてるんだ」
「木を切ったり石を持ち上げたり、いろいろですが体力作りがメインです」
「じゃあ、せっかくだから今日は模擬戦をやってみないか?」
自分にどれだけの力が付いたかなんて比較対照がないと図ることはできない、魔王の力ともなればなおさら、せっかく勇者が持ち掛けてきた話、ありがたく受けることにした。
「それじゃあお手柔らかに」
「おう、始めるぞ」
私とクロバは十メートルほどの距離を置いた。
森の中心にある、木が少なく空が見える草原でクロバはコインをはじいた。
「キーン」
コインが石にあたり金属音が響く、それを合図に戦闘が開始した。
「一瞬で終わらせてやる!」
クロバは最初にあったとき同様、柄に手をかけて走りこんできた。
「最初も思ったのだけれど、クロバってちゃんと考えて戦ってる?突っ込むだけじゃ勝てないよ?」
「風の妖精・空気を固め・盾となれ」
「シールド」
クロバの目の前で一瞬空間がゆがみ、一メートル四方くらいの薄くて半透明な壁が作られた。
これは先週、ディルに教わったばかりのクラス3の魔法。
突然目の前に壁ができたら誰だって驚く、走って突撃しようと思っていたコースに突然現れるのだ、たまったものじゃない。
でも。
「にっ」とクロバは笑みを浮かべて壁をすり抜けた。
「えっ!」
さすがクロバ、何か策があったんだ、勇者なだけはある、簡単には勝たせてもらえないみたい。
「ブースト」
クロバがそう叫ぶと走る速度が急に上がった。何か魔法を使ったみたいだ。
「はゃっ!?」
「しゃ。ここまでくれば!」
「キーン」
「残念。惜しかったね」
「なんで!」
模擬戦が始まった直後、自分の体から半径一メートルくらいをシールド丸く覆っていた。念のための策だったけど、唱えておいてよかった。
まさかあんなに早く距離を詰められるなんて。
だけど、シールドにひびが入っていた。
「さすがクロバ」
「あと少しだったのになー、それ最強じゃないか?」
そんなことはない、ただの速度が上がっただけの斬撃でひびが入ってしまった。
威力の高い攻撃を撃ち込まれていたらひとたまりもなかったと思う。
まだまだ修行の必要がある。
「ま、惜しかったから、お昼ご飯、クロバの分もあげます。どうせまた現地調達するって何も持ってきてないんでしょ?」
「やったー!」
やっぱり子供みたい、とこっそり笑って持ってきたお昼を出した。
今日は外で軽く済ませられるようサンドウィッチを作ってきた。具材は鶏肉にキャベツ、トマトに卵が。
「うまそう、ディルがうらやましいぜ、いつもいいもん食ってんだろうな」
「よだれ垂らしながら変なこと言わない」
クロバはパクパクとおいしそうにお昼を食べた。
・・・
「さて、午後の修行もがんばるぞ」
お昼をすまし、少し休憩をはさんで午後の修行を開始しようとしたとき。
「グォー」
ゴブリンが慌ててシロネの元にやってきた。
「どうしたの?」
ゴブリンが走って森の外に私たちを案内してくれた。
ゴブリンの森は帝国との国境近くにある。
森を抜けると帝国内の村が遠くに見えるくらいの距離まできた。
その村から黒煙が上がっていた。
「なんだ、あの煙、ちょっと様子を見てくる」
クロバがそう言って村のほうに走っていった。
私はレインの人間だから勝手に帝国に入るとができない、クロバに任せることにした。
だけど、そんな悠長なことをしている暇なんてなかった。
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