第十二話 勝利と弟子2

ディルがテインズの本陣に入り、ビィーンの行ってきた悪事を暴露したことで、ロイが連れてきた兵の指揮はほぼ無いに等しくなった。

 前線に出ていた騎馬隊や歩兵もわざと残した抜け道から徐々に戻りつつあり、戦場は混乱を極めた。


 「皆の者、落ち着け!」


 何とか指揮を取り戻そうとするビィーンだったがその声を聞こうとする者はいなかった。

 ビィーンについてきたテインズもあきらめた表情で肩を落としていた。

 指揮が完全に無くなったところでディルは言った。


「我々は最初から誰かを傷つけようなどとは思っていない。早急に撤退するのだ!」


 はなから帝国内に逃げ込んだもの、ディルの言葉を聞いたもの、様々だが、ビィーン以外は後ろを確認することなく武器を捨てて走り去って行った。

 かく言うビィーンは今まで積み上げてきたものを一瞬で失ったショックで足に力が入らず膝をついていた。


 「自業自得だな」

 「クソ、何故俺だけ」

 「確かに帝国には我々を害するものは沢山いる。だかな、自身の仲間まで騙し、守るべき民を傷つけたお前は我々の目標の邪魔なのだ」

 「目標?」

 「人間と魔族の共存だ」

 

 ビィーンは突如襲いかかった睡魔によりその場に倒れた。


 「これで作戦完了ですね」


 私はディルの話にキリがつくところを見計らって背後から「スリープ」の魔法を唱え、ビィーンを眠らせた。


 「あぁ。あとはビィーンを帝国の牢獄前にでも縛って投げ捨てておけばしかるべき処罰が下されるだろう。これは帝国に任せる。帰るぞ」

 「はい」


 私は「サイレント・レター」を使い作戦完了を魔族の仲間に伝えた。

 ゴーレムや魔族達は山々へ帰って行った。


 ・・・



 テインズを撤退させてから一日がすぎた。その後クロバからの話によると、ビィーンは終身刑になり、テインズは配属が代わりバラバラになったらしい。


 「今回はクロバのおかげで助かったぞ」

 「そんなことないぜ!だが、俺は勇者なのに先頭で手助けをすることが出来なかった」

 「仕方ないです、クロバは情報収集のために帝国に入り込まないといけないから」


 クロバは申し訳なさそうに俯いていた。


 「今回はクロバが出ることができない場面だったから仕方ない。次の機会があれば戦闘面でも協力してもらおう」

 「そうしましょう。ところでクロバは強いの?最初あった時は眠らせちゃったから」

 「レベルこそシロネと同じくらいだが、俺にはちゃんとした先生がいないから、技術的な部分は独学だ、だからあまり強くわない...と思う」


 クロバは転生させられてから帝国と魔族のことは聞いたがそれ以外は放置だったそうだ。



 「そうだ、ディル、俺を弟子にしてくれ!」

 「はぁ!?ダメですよ、ディルは私の先生です!」

 「うむ、よいぞ」

 「はぁ!?魔王が勇者に指導してどうするんですか!」

 「これからよろしくお願いします!」


 私は勇者と魔王にあきれ、口がぽかんと空いてしまった。


 「ま...いっか」


こうしてレインの危機はさり、私の魔王後継者としての修行生活がまた始まった。

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