第十一話 テインズと真実

 クロバが情報を持ってきてから十日後。

 ビィーン率いるテインズ千人、ロイ率いる兵団五千が集結し、国境付近で陣を取っていた。

 対してこちらも準備を進めていた。

 

 「これでよかったのでしょうか」

 「何事もやってみなければわからない」


 情報を早めに入手することができたので対策をとる時間が十分にあった。

 私の要望により、敵味方ともにできる限り無傷でことを終えることが大前提となった。

 作戦の決行は周囲が山に囲まれているレイン東部の草原に決まった。

 相手の数は約六千、こちらは国境警備をしている魔族を招集し、五百といったところ。

 

 「数では不利な状況だ」

 「そうですね」


 そもそも真っ向から戦うつもりはない、命を第一に考え、足止めをしてくれればいい。

 

 「我やシロネが前線に出なければならない、気を抜くなよ」

 「はい!」


 「アォー」


 クロバの情報通り、昼を過ぎたころ騎馬兵を前衛、歩兵を真ん中、ビィーンと魔法師団からなる本体を後衛において大群で攻めてきた。


 「ダークエルフの遠吠えです、情報道理ですね」


 ディルは無言でうなずいた。


 「以後、相手の全兵士をテインズとします、作戦開始!」


 テインズがレイン東部草原に入ってきた。


 「水の巫女・風の妖精・地を築き・山となりて・水で満たせ」

 「ダート」


 私は魔法を唱え、騎馬兵と歩兵の間に泥の壁を作った。

分断された騎馬兵を援護しようと壁を登ろうとするが泥で滑って上ることができないでいる。

 戦場は山に囲まれている。

 私はわざと壁の端に通れる道を作った。

 テインズはそこからなだれ込んできた。


 「分断と混乱させることに成功しました。ゴーレム隊突撃開始!」


 「サイレント・レター」を使いゴーレム隊には事前に合図を送れるようにしていた。

 ゴーレムとは身長が二十メートル近くあり、重さが数百トンある大きい種族で近接攻撃はほとんどきかない。



 「ビィーン様、泥壁の向こうで騎馬兵が突如山から現れた二体のゴーレムに挟み撃ちにされています!」

 「えーい、泥の壁よりこちら側に撤退させろ!騎馬隊は機動力のかなめだ一騎でも多く死守するのだ!」


 「水の巫女・風の妖精・光の天使・自然の縛りで・我が領地を犯す敵を・足止めせよ」

 「グラス・ストリング」


 騎馬兵の乗っていた馬は地面から生えてきたつるや草に絡まり動けなくなった。

 混乱していたこともあり、撤退命令が下った騎馬兵は援軍として山と泥壁の間を駆け付けた歩兵と鉢合わせになり狭い道は混雑した。


 「ディル、いけます」

 「うむ」


 「風の妖精・我の背に・翼を」

 「フライ」


 ディルは魔法を唱え混乱しているテインズの頭上を飛び越え一気にビィーンの元へ飛んだ。



 「あとは任せましたディル」


 ディルは敵本体にまっすぐ飛んで行った。

 私はディルがこの戦いに決着をつけるまでゴーレムと足止めをしてくれているほかの仲間を守ることが役目だ。


 「ここまでは計画通り」


 ・・・


 ディルはビィーンの目の前に着地した。


 「貴様は、魔王!」

 「ああ、我は魔王、魔王ディル・ヴァ―ルだ、よくもやってくれたな」


 今回の作戦は、ディルはビィーンの信用を落とし、指揮官を失った兵隊を戦意喪失させて撤退させるというもの。


 「ビィーン、お前は我々魔族の国でも、人間の帝国でも やってはいけないことをやった」

 「なんだと!」


 ビィーンを守っていた魔法師団が全員杖や魔導書を構えた。


 「落ち着け、別に殺しに来たわけではない」

 「魔族を信用できるものか!」


 魔導師の一人が声を上げた。


 「信用できない、それはビィーンのことではないか?」

 「何を!」


 ビィーンがディルにくってかかる。まるで私は何もしていないとでもいうかのようにしらを切った。


 「残念だが、証拠はある」

 「そんなものがあるなら見せてみろ!」


 ディルはマントから一枚の書類を取り出した。


 「皆聞け!知っているものも多いと思うが、先日帝国の村を守ろうと依頼をうけ、オーク討伐に向かった兵士を魔族が皆殺しにしたという話がある」


 帝国兵は情に厚い仲間思いな人間たちだ、ほぼ全員がその出来事を知っている、拳を握り殺意のこもった目でディルを見る。


 「その話、真っ赤な嘘だ」


 テインズの中にざわつきが広がる。


 「その件で死んだ帝国兵は一人もいない!全員無傷で帰したからな。それにまず、その依頼自体が偽物だったのだ」


 そういってディルは取り出した紙を高く掲げた。


 「これは依頼をギルドが公式に出したことを認める書類だ!」

 「なぜ貴様が、内通者がいるのか?しかし、ギルドが認めた証があるのだ、偽物の依頼などではない。」


 ビィーンが反論した。だが、ディーンは逆に「にっ」と笑った。


 「本来、ギルド公認の書類にはギルド公認印が押される。だが...。この書類に押されているのは、ビィーン個人の印だ!」


 ロイの兵団の表情が困惑の表情に変わり動揺が走る。ビィーン自身は口が半開きになり何も言い返せずにいた。


 「これはどういうことかな?ビィーン」

 「し...しらん!」

 「これは確かにあなたの名が入った印です。この依頼が偽りであるのは明らかだ」


 くっ。と言ってビィーンは後ずさりする。



 「ビィーン、貴様は魔族に濡れ衣を被せるために村を焼いたことすらあったな」

 「そ...それは」


 言い返すこともできないビィーンを見て、テインズは戦意を喪失した。

 ついに真実が公のものとなった。

  


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