第十話 ディルとレイン
クロバが私たちの仲間になってから数日が過ぎた。
帝国で表向きには勇者として行動してもらいながら情報収集をしてもらっている。
定期的に報告に来てもらっている、今日はその日だった。
「お邪魔します」
家に入るとディルがソファーで調合していた。
「いらっしゃい」
「あれシロネは?」
「今シロネは薬品調合に必要な薬草を取りに行ってもらっている。報告を聞こう」
「わかった」
ディルは調合の手を止めた。
クロバはその向かいに座り報告を始めた。
「ビィーンが軍隊を集め出した。前回のオークの件が効いたみたいでみたいで焦って行動的になってる」
「そうか、国境付近の警戒を強めなければならんな」
「これはうわさなんだが、十日後ビィーンの部下のロイ・ラーンって奴が統率してる兵団が来る」
「なんだと、これでは戦争になってしまう。それだけは避けなければ」
ディルは作戦を考え始めた。
クロバはふと思ったことを質問した。
「なぁ、ディルはどうやって魔王になったんだ?」
ディルは突然固まった。さっきまでのまじめなディルの顔から少し悲しそうな顔をした。
「これは我が人間だった頃の話だ。まだ我が二十五だった頃...」
ディルが元は人間だったことに驚いた。
でも、ディルの表情を見ると話に水を差すようなことはできなかった。
「我は村の学校で、魔法の技術講師をしていた。婚約を約束した妻もいた。名をレインといいう」
レイン。
それは魔族の国の名前でもあった。
「我は彼女と一緒に魔術を教えていたんだが、ある日、授業に必要な教材を取りに渓谷に向かったんだが、荷馬車の軸が折れ二人一緒に渓谷に落ちた」
ディルは思い出すように語った。
その顔はやっぱり悲しそうで、この話がハッピーエンドではないことを物語っていた。
「幸い我もレインも生きていた。上に戻ろうと思ったんだが上ることができない。谷底を調べると洞窟があった、上に繋がっていればと思い二人で洞窟に入った。」
ディルは普段服の中に隠しているきれいな魔石のついたネックレスを取り出した。
「洞窟の途中で我とレインは自らをサラと呼ぶ魔神の少女に出会った」
魔神とはめったにいない希少な存在、もしかしたらその渓谷の守り神だったのかもしれない。
「彼女に案内してもらって洞窟を抜けると地上に上ることができた。彼女はその渓谷から離れることができないと言っていた。その時にお守りだってこの魔石をもらったんだ」
ディルは魔石を親指の腹でなでながら話をつづけた。
「彼女はその渓谷から離れることができないと言っていた、お礼をするつもりで、しばらくその渓谷に二人で通っていたんだが...」
ディルの表情が一段と増して暗くなった。
「ある日、いつものように渓谷に行くとい渓谷は近くの村の兵隊に囲まれていた。急いで渓谷に向かうととサラが渓谷の外に引きずり出され殺されていた」
クロバはディルの過去を聞いて背筋に寒気を感じた。
「数時間前、鉱石目当てに来た探検家が魔神を見つけて兵舎に駆け込んだらしい。その話を聞いた兵隊が討伐隊を送りサラを殺したと後から聞いた。レインは悲しみで涙が枯れるまで泣いた。短い期間だったが娘のように思っていたからな。だが、その姿を見た村人たちは 彼女を魔女だといい、今度は彼女を処刑しようと家に入ってきた」
ディルは煮えかえるような怒りを表に出さないようにしていた、でもその時のディルの表情は魔王だといわれなくてもそうだとわかるほど憤怒を抑えられないといった表情をしていた。
「サラと同じ目には合わせない、絶対に守るとそう彼女に宣言したのに、我にはその力がなかった。レインは村人たちに連れていかれ、次に彼女を見た時、背中に大きな切り傷があって助からない状態だった」
ディルは魔石を強く握りしめた。
「魔族も人間も互いに認め合える世界にしてほしい。レインは最後にそう言って死んだ」
それ以来ディルは少数派の魔族を守りながら国を作り、ここまで来たらしい。
ディルが魔王になった経緯はとても残酷なものだった、その話を聞いたクロバは決意を新たにした。
「ディル、あんたは優しい魔王だ。俺はお前みたいなやつが好きだ、その信念をこれからも大切にしてくれ」
「ああ、そのつもりだ」
ディルの話が終わると同時、家の扉があいた。
「ただいま戻りました。ディル、取ってきましたよ」
「ありがとう。クロバが来ているぞ」
荷物を置いたシロネとクロバは目が合った。
「いらっしゃい」
「うん」
「シロネ、作戦会議だ。こっちに来てくれ」
「はい」
勇者と魔王の結束力が高まっていたころ、帝国の陰では巨大な兵力が集まりつつあった。
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