第九話 勇者と魔族
クロバが帰ってから三日が過ぎた。
今日もいつも通りディルとフォール、三人で朝食を食べている。
「朝食もうまいな。これはなんだ?」
「うどんを作ってみました」
小麦粉に近いものの作り方をディルに借りた薬草の本で見つけたので試してみた。
森に生えるランタというジャガイモのような植物を乾燥させ、粉末状にしたもの。
ちなみにつゆは鶏ガラのだし。
「この紐みたいなのはどうやって作ったんだ?」
こちらの世界には存在しない料理らしく、ディルは興味を持った。
「ランタを乾燥させて粉末にしたものに水を混ぜて踏んだりこねたりしたものをこの細さになるように切りました」
初心者が作っただけあって太さが不揃いなものもいくつかあった。
「今度教えてくれないか」
「はい」
そんなほのぼのした話をした話をしていると。
コンコン。とドアをたたく音が聞こえた。
「久しぶりだな」
ドアを開けるとそこにはクロバがいた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
クロバは家に入るとディルと目が合った。
「ま、魔王!」
「やぁ」
ディルはお茶を飲みながら。
クロバは剣に手をかけ抜く寸前でそれをやめお互い挨拶を交わした。
「何か話があるのだろ?まあ座ってうどんでも食いながら話そう」
「うどん?」
「シロネ、頼む」
「わかりました」
私は作り置きしておいた麺をさっとゆでて出した。
「おまたせ、どうぞ」
「シロネの元居た世界の食べ物らしい、うまいぞ」
クロバはごくっと喉を鳴らし、勇気を振り絞って食べた。
「う、うまい!」
その時、クロバの口の中で革命が起きていた。
「鶏のスープにうどん?が合わさって白い蛇がとんでもなくうまくなってる」
「すごくおいしそうに食べてくれますね。蛇じゃないけど」
「ま、まあまあだな」
ディルは自分のことのようにどや顔をしながら自慢をする。
クロバはつゆまで飲み干すと私に一礼してから話を始めた。
「初めまして、魔王、俺は元いた世界で死んでから転生させられてた勇者だ」
「我は魔王ディル・ヴァールだ。皆はディルと呼ぶ」
「俺はクロバ。シロネに聞いたことを踏まえて帝国の裏を探ってみた。ビィーンが魔族を貶めるために裏で動いている証拠があった」
クロバは勇者としてのあらゆる権限を使い、一般人では入ることのできない帝国の裏まで調べ、その目で真実を見てきたらしい。
さすが勇者、行動力と顔は聞くんだと思った。
「それで、俺を魔族の国においてくれないか?ディルやシロネの手伝いをしたい」
クロバは席を立ちあがりそういった。
私はクロバが元魔族であること、それなのに魔族が嫌いなことが気になった。
「なあクロバ、お前は元魔族なのだろ、なぜ魔族の側につこうと?」
「俺は魔族が嫌いだ」
以前にも聞いたその言葉はやっぱりうそを言っているような感じではなかった。
「前世、魔族になる前、俺は普通の人間だった...」
クロバは前世の記憶を話し始めた。
「ある日、俺の住んでいた町に魔族が来た。家族や友人は皆殺しにされた。よくわからなかったが俺には魔族になる素質があったらしい。数日間薬漬けにされた。目が覚めた時には俺はもう人間じゃなかった」
そう、魔族と言ったら私もそんなイメージを持っていた。
自分のやりたいように暴れる。
そんなイメージ。
「魔族になった俺はすでに生きる気力を無くしていた。でも、ほかの魔族の連中が人間を殺そうとしているのを見殺しにはできなかった。単身魔王を討伐しようとして処刑された」
クロバの過去を聞き、魔族が嫌い理由は十分わかった。
だから魔族が嫌いなのに何でこちらが側につこうとしたのか余計わからなくなった。
「つらかったろう」
「あぁ、だけど、ディルとシロネは違う。二人は人間との共存を願ってる」
つらい顔をしていたクロバが表情を切り替え、まっすぐとこっちを見た。
「この世界の魔族は人間によって苦しめられている。姿かたちが違うだけで殺したりするなんて間違ってる。それじゃあ人間が俺の嫌いな魔族みたいじゃないか」
「そうだ、互いに認め合えば悲しい争いなど起こらない」
ディルも立ち上がり、勇者の意見に賛同する。
「だから、俺にも協力させてほしい。改めて頼む、魔族の世界に俺をおいてくれ」
「うむ、断る」
ディルは即答した。
「「えっ!」」
私もクロバも驚いた。
「クロバの協力には感謝するお前は我らの仲間だ。だが、クロバがレインに来てしまったら、せっかく帝国を裏から調査できる貴重な手段を失うことになる」
「なるほど」
「クロバは勇者として帝国での情報収集に協力してくれ、レインには好きな時に来てくれて構わない、ただ、人間にばれないようにな」
「分かった!」
クロバは一礼して帰っていった。
頼もしい仲間ができた。
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