第八話 勇者と過去
「どうしたらいいかな...」
とりあえず家まで運んで椅子に縛った。
持ち物確認をしたところ、剣や回復薬、携帯食料などの装備のみだった。
「ディルが返ってくるまで目がさめないといいなぁ」
「スリープ」の魔法はクラス2の魔法で一日一度のみ使用可能という条件があるため何度も唱えることができないのだ。
そのくせ効果時間は個人差があるものの約二時間と短い。
ディルが何時に帰ってくるかわからないから目が覚めたら相手しなければならない。
「そのうち目も覚めるだろうし...置いておこ」
・・・
フォールト魔法の練習をしていると少年は目覚めた。
「ここは、どこだ」
「おはよ」
椅子に縛り付けられた状態で逃げ出そうと抵抗する少年。
「あきらめて、魔法で強化したロープだから簡単には切れない。それに落ち着いてもらえないと話が進まない」
「魔族の話なんて聞かない!」
「だからそんなつもり...」
少年は何とかロープを切ろうと暴れていたせいで椅子が倒れ地面に頭を打って悶絶していた。
「ふふっ」
「な...なんだ!」
「面白くって」
少年のここまでの行動を思い出しつい笑ったしまった。
「くそ、笑うなら好きにしろ!」
今更だが縛りながら話をしてもそもそも信じてもらえないと思った。
紐をほどき、お茶を出した。
少年は紐をほどく間は暴れていたけど、ほどき終えると少し落ち着いた。
「私の名前はシロネ、あなたの名前は?私は魔王の後継者として魔王に転生させられた人間よ」
「人間、転生...」
少年は何かを迷うような表情をした後、口を開いた。
「俺はクロバ。勇者として帝国に召喚された元魔族だ。今は人間だけどな」
「勇者!?」
「まだ召喚されたばかりだけどな。魔族にはレベルの概念はあるのか?」
「えぇ」
少年はバックの中からカードをとりだした。
「これはギルドカード。人間は生まれるとギルドでこのカードを発行してもらうんだ」
「へぇ、私の魔導書みたい」
そう言って私も魔導書を取り出した。
「私のレベルは6、体力値658、魔力量340」
「俺はレベル5、耐久値565、スタミナ312だ」
話を聞くと転生をさせられたのは私とほぼ同じ頃だった。ステータスの内容は違うがレベルの上昇もほぼ同じ。
表記の違いが多少あるけど、ギルドカードと魔導書は同じようなものらしい。
「俺たちは同じような立場らしいな。」
「そうね、でもなんで元魔族なのに人間の...しかも勇者に」
「そんなこと言ったらお前だって元人間なのに魔王後継者じゃないか」
「...」
「...」
お互い分からないことがまだまだ多い。私はディルに聞いた魔族と帝国の関係を説明した。
オークの件もしっかり説明をした。
「そうか...完全に信じたわけじゃない、でも今は転生仲間ってことで見逃してやる」
クロバは席を立ち、家の扉に手をかけた。
「でも、もしお前が人間を傷つけるようなことをしたら許さない。俺は魔族が嫌いだ」
クロバはこっちでも調べてみるといって帰っていった。
元魔族のクロバがなぜ魔族を嫌っているのかは分からないけど魔族と勇者が敵対するということは人間との全面戦争を意味する。
でもそれはディルの理想とは異なる。私とディルは魔族と人間との関係改善を目標にしているからだ。
・・・
「ただいま」
「おかえりなさい」
一七時頃、太陽が沈みかけてきたころディルは帰ってきた。
「今日勇者が来なかったか?」
「ええ、来ました。最初は抵抗されましたけど、ディルに聞いた話を説明したら帰っていきました」
「そうか」
「私と同じ時期に転生したとか」
「ああ、我がシロネを転生させたことが帝国に気づかれてな、向こうはあせって転生させたのだ」
クロバは魔族だったのに魔族を嫌っているようだった。私はそれが気になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます