第四話 力と文言

 服を着替えてから練習を続けて一時間ほどが経過した。


 ぐぅー


 「もう昼だな。食事にしよう」


 いつの間にかおなかが鳴るほどに空腹になっていた。

 今いるのは転生した地下室を出てすぐの場所。

 そこから五分ほど歩くと岩につぶされた家を見つけた。


 「ここが我の住処だ」


 第一印象はサンドイッチに入っているつぶれた卵だった。


 「家がつぶれています...」

 「失礼な、中はきれいだぞ」


 目立たないようにするための策なのだろうと妥協して中に入った。

 ロウソクと宙を舞う赤い光の玉に幻想的に照らされた空間。

 岩をくり抜く形で作られていて二階建てのきれいな家だった。


 「きれい...」

 「いっただろう」


 お世辞じゃなく、今まで生きてきた人生。

 いや、前世で見たどんな場所よりもきれいだった。


 「ここでしばらく座っていてくれ、食事を準備してくる」

 「わ...私も手伝います!」

 「これから一緒に暮らすんだ、食事は当番制にしようと考えている。今日は我の番ということだ」


 ディルはそう言ってキッチンで調理を始めた。

 私は棚に並べられた数々の本や瓶に入れられた見たこともない植物を見て時間をつぶした。


 「よし」


 十分ほどしてディルが完成した料理を運んできた。


 「待たせたな」

 「いえ、ありがとうございます」

 「こちらの味が口に合うかわからんが、まぁ試してくれ」


 ディルが作ってくれたのは焼き魚だった。

 フルーツ系の甘い匂いのするソースが回しかけられていた。


 「いただきます」


 結果から言う。

 食べたことがないほど絶望的な味だった。


 「す...すいません、味が合わないみたいです」

 「そうか、どうにかしなければならないな」

 「ごめんなさい」


 パンや水は元の世界と同じ感じだった。

 果物類も食べれないわけでもなかった。

 仕方なくパンと果物を胃に詰め込み食事を終了した。


 「ごちそうさまでした」

 「この後のことだが、とりあえず魔法の練習をもう少し続けようと思う。基本はやっただけ身につくからな」


 また手から水が出たり、指先から小さな火が出たり、そよ風を吹かせて涼むような魔法の練習に戻るらしい。


 (じみだなぁ...)


 「ディル、基本も...その...大事ですが、もっといろいろな魔法を使ってみたいです」

 「そんなに焦る必要はないぞ?」

 「私は、ディルの役に立ちたいです!」

 「まぁ、原理くらいは教えておいたほうが良いか」


 ディルは少し腕を組み考えた後。


 「魔法はイメージの強さ、魔力のコントロール、そして、魔法を使うときの文言によって決まる。例えば魔法で風を起こしたいとしよう。その時に魔力が多く流れるイメージをすれば強い風が吹き、少量ならそよ風が吹くといったかんじだ」

 「なるほど...」

 「文言とは魔法を唱える際、魔力をより理想の現象として発現させるために自分のイメージと魔力を関連付けるためのものだ。 文言をあみだとすると、魔法を唱える時に脳内に散らばっているイメージを文言を使って救い上げる感覚だ」

 「関連付ける...」

 「また風で例えてみよう、強い風を起こしたい場合の文言は暴風や嵐といった文言を使うとより威力の高い魔法を使うことができる。逆に、弱い魔法を唱えたいときはやわらかいとか安らかといった文言を使うといいということだ」


 私は最初にディルにあったとき、自分の足を治してっもらった魔法を思い出した。


 「それじゃあ、私の足を治してくれたあの魔法もイメージを関連付けることができれば唱えることができるということですか?」

 「あぁ、可能だ、しかし、シロネの魔力量ではまだ難しいな」


 残念。


 「我の魔力量は108150、あの魔法は唱えるのに魔力が500はいる、クラス3の魔法だからそれくらいする」

 「私の魔力量はまだ42、ぜんぜんたりません...」

 「だからまだ焦る必要はない。成長に合わせてやって行けばよい」


 ディルはやさしくほほえみ魔法の説明を続けた。

 魔法は威力や効果範囲によってクラス分けされているらしい。

 クラスは1から9まで。

 よほど特殊な存在じゃない限り通常の人間が生涯修行しても使えるのはクラス3の魔法がが限界だそうだ。


 「ディルが使える一番協力な魔法はどんな魔法なんですか?」


 ディルは少し悩んでから話し始めた。


 「強力な魔法は特定の条件下でなければ発動しないものが多いんだ。特にクラス9ともなればなおさら。だが、今発動可能な魔法なら見せることはできるぞ」

 「本当ですか!」

 「ああ、正し、魔力を抑えた縮小版の魔法を放つ。今話しているのは文言の話だからな、よく聞いて自身の魔法につなげるのだぞ?」

 「はい!」


 そういうとディルは自身の魔導書を取り出し、顔つきを変えた。

 私ものどを鳴らしその光景に視覚、聴覚を集中させた。


 「火の魔神・風の妖精・陰と極を縛りて・大火の咆哮を鳴らし・全を無に帰す神撃を下せ」


 ディルの魔導書から赤が混じった黒い炎が竜巻のように吹き荒れた。


 「ダーク・ヘクライザー」


 その直後目を閉じても視界が白に染まるほどのまぶしい光が発生した。

 そして、ガスコンロから出るくらいの黒い炎が一瞬起こった。


 「えっ、あんなすごそうな文言を唱えてこれだけですか?」

 「いっただろ、魔力を抑えると。今のはクラス7の魔法。もし我が本気で今の魔法を唱えていればレインの三分の二が大穴に変わっている」


 あまりにも大きすぎる話にイメージがわかなかった。


 「これで分かったな。魔力量ととイメージをより強く結びつけるための文言。この二つがそろうことで強力な魔法を唱えることができる」

 「は、はい」


 私はどれだけ修行を積めばこんな魔王になれるのだろうか。

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