第三話 ステータスと魔法

 「一ページ目を開いて」


 ディルの指示通りに本を開く。

 読むことはできないけれど表紙に書かれていたものと同じようなフォントの文字が何行も書かれていた。


 「なんて書いてあるんですか?」

 「字を読む勉強もしなければならないな」


 ディルはカーストの書を覗き込んだ。


 「魔導書の最初のページは契約者の能力やステイタスが記載されている」


 ディルは魔導書を指さした。


 「上から順番にレベル、体力値、魔力量、スキルだ」

 「私はレベル1ということですか?」

 「あぁ、よく読めたな」


 字を読むことまではできないが数字にはギリシャ数字に似た法則性があった。


 「シロネはまだこちらに来たばかりだからな、生まれたての赤子のようなものだ」

 「ディル...さんは、その、レベルいくつなんですか?」

 「ディルでよい。レベルはマックス。300だ」


 レベルにはクラスがあるらしい。

 1~100はブロンズ。101~200までがシルバー。201~299までがゴールドらしい。


 「レベル300は何なんですか?」

 「エンド、そのままの意味、終わりだ」

 「ちなみに、レベルを上げると特殊スキルが手に入る、頑張ってレベルを上げるんだ」

 「レベルはどうやったら上がるんですか?」

 「学習や戦闘、生きていくうえで経験したことが経験値となりレベルアップにつながる」


 なるほどと思い本に目を戻す。レベルの下にまた文字と数字が続いていた。


 「この行が体力値、こっちが魔力量だ。体力値が15、魔力量が23だな」


 レベルの上昇に応じてこの値も上昇するらしい。


 「魔力があるということは魔法が使えるんですか?」

 「ああもちろん。せっかくだ、初めての魔法授業もやろう」


 ディルに読んでもらうと属性適正が火=20、水=20、風=15、光=20、闇=30、陰=40、陽=80となっている。

 読み終えるとディルは首を傾げた。


 「陰と陽、こんな属性の魔法は見たことがない」

 「そうなんですか?」

 「この世界における魔法属性は火、水、風の基本三属性と光、闇の応用二属性の合計五属性しかないはずなのだ。千年近く生きている我ですら見たことがない」


 しばらく考えた結果、今後ゆっくり研究していくことに決まり、とりあえずは基本三属性を使った魔法授業をすることに決まった。


 「まずはシロネが一番適正値の高い水属性から始めよう」

 「わかりました」

 「魔法とは、文言を使って行使したい魔法の属性に近い種族にお願いすることによって発動できる」

 「文言ってディルが魔法を使ったときに言っていたあの...」

 「そうだ。文言が連なったものを呪文という。それじゃあ試してみよう」


 今回は初心者が魔法を練習するときに使われる基本の呪文を唱えることになった。


 「いいか、目をつむって深く息を吸いながら体中の血が血管を巡るのを強くイメージするんだ」


 深く息を吸い、空気を肺に押し込む。

 空気に含まれる酸素が血液に運ばれ体中の血管を伝っていく。


 「なにこれ...。体が...熱い」

 「それが魔力だ。その感覚を覚えるんだ」

 「はい」


 頬に汗が伝う。

 無意識のうちに体中に巡る細い血管のイメージから、山々の間を流れる川のようなイメージに変わっていた。

 「おぁ、いいぞ。」


 さっきよりも体の熱が上がったのを感じる。

 コートやジャンバーを着込んでいる感覚だった。


 「目を開けてみるんだ」


 そっと目を開けると視界がほんのり青く染まっていた。

 自分を中心に青白い炎が渦巻いている。


 「これがシロネの魔力だ。思ったより強いな...」

 「これって火ですか?」

 「あぁ、だが自身の魔力だから熱くもないし燃えることもない」


 確かに炎の渦の中にいるのに熱くない、服や肌に当たると線香花火のようにきれいな火花を散らしてきて言った。


 「手に意識を集中して、我に続いて呪文を唱えるのだ」


 「水の巫女・我が手の内に・清き恵みを」


 ディルが足を治した時と同じよう。自身の魔導書が風でめくられ、ページが開かれる。そして、新たな文字が記載された。


 「ウォーター」


 そう唱えると意識を集中していた手の平から水が湧き出した。


 「わぁ!」


 しかし出てきた水は学校の壊れかけのウォータークーラーから出る水くらい少量だった。


 「よくできたぞ。」

 「これ...だけですか?」


 初の魔法はあまりにも地味なものだった。



 ・・・


 地味でも基本は大事。

 その後も火、風と、一時間近く同じような地味な練習を続けた。


 「それじゃあ、魔法の練習はこれくらいにしよう」

 「はい」

 「それともう一つ渡しておきたいものがある」


 ディルはそういうとマントの中から何かを引っ張り出した。


 「ずっとその服ではつらいだろう」


 そう言ってディルは新しい服をくれた。


 「シロネを転生させてからこっそり魔法で作っていたんだ」


 その服は黒色がメインで白いラインとリボンを使った、メイド服の夏服版をお姫様使用にした感じできれいだった。


 「ありがとうございます!」


 ディルに魔法で目隠しを作ってもらい、死ぬ前に着ていた病院の服から新しい服に着替えた。


 「どぉ...でしょうか」

 「すごく似合っているぞ。まずは見た目からだな」

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