第二話 役目と魔導書

 「そういえば名前を聞いていなかったな」

 「白音...です」

 「シロネ、今更なんだが、我の勝手な考えでこの世界に転生させてしまった、あのまま死にたかったか?」

 「...今はまだわかりません」


 お父さんとお母さんが死んでからここに来るまでの私の生活は孤独そのものだった。

 だけど、この世界に来てからはディルに必要とされている。

 そんなどっちつかずな煮え切らない私の心をディルは読み取ったのか。


 「いやじゃなければいいんだ。少しずつなじんでいけば...」

 「はい」

 「それじゃ。第一回、魔王の授業開始だ!」


 まだあったばかりだけど。ディルのつかみにくいテンションの変動に私は無意識に冷たい目を向けていた。


 「まず、魔王の役目について説明する。魔王の役割は主に三つ」


 ディルは指を三本立てた。


 「一つ。国の守護」


 これは魔族の国、レインを管理し、そこに住む魔族たちを守ること。

 魔王として最も重要な役目。


 「二つ。境界付近の警備」


 人間の住む国との境界を見回りなどで警備すること。

 人間の兵士や冒険者、探検家が国境を越えて魔族を脅かすことがあるらしい。

 そのため、侵入者がいたら魔法で追い返すらしい。


 「三つ。さぼる、これが一番大事だ!」


 ディルにとって、魔王の仕事をいかにさぼりながら遊べるかが大事らしい。

 表向きは見回りをしながら実際は日向ぼっこをしながら散歩をする。

 そんな感じでゆったり生きてきたようだ。


 (魔王が日向ぼっこ...。冗談かな?)


 やっぱりディルのテンションにはついていきずらい。


 「最後のは...何ですか?」

 「魔王とはたまに活躍するが長生きするだけの暇な存在なのだよ。つまり、暇!ということだ」


 魔王とは、前任の魔王に魔王の称号を授かると不死の効果が付与されるらしい。効果の期限は魔王引退までだそうだ。


 「確かに何百年も生きていると暇...かも...」

 「我以外の魔族は人間に見つかるとすぐに殺されてしまうから。仲良くなった魔族も次の週には死んでしまっている」


 そういったディルの顔は少し寂しそうだった。


 「だからシロネには、人間との関係改善だけのために後継者にしようと転生させたわけではない」

 「我の話し相手になってほしいのだ」


 ディルは真剣に、でも、どこか不安げにそういった。

 その表情に涙が出そうになった。


 「それでは話を戻そう」


 表情が明るく戻ったディルはマントの中をあさり、黒い表紙の本を取り出した。

 ディルが足を直してくれた時に手にしていた本と同じようなものだった。


 「魔王とはすべての魔族を守る義務がある。そして、皆を守るためには力が必要だ。まずはこれを渡そう」

 「この本って何なんですか?」

 「これは魔導書。血の契約を交わすことでそのものを持ち主と認め、シロネがこの世界で生きていくうえで様々なアシストをしてくれるものだ」

 「ちっ、血!?」

 「そう心配するな、血は一滴だけでよい」


 ディルはマントの陰から針を取り出した。針を指にさし、血を出すようだ。

 かくいう私はすでに涙目である。


 「この魔導書は我が作ったものだ。第七位炎龍だいなないえんりゅうの皮と精霊の森に生える蘇生薬草を使って作ってある。丈夫で長持ち、そして強力な魔力がこもっている。見てくれは古いが一級品だ」


 ディルは魔導書について語りながら私の手を取った。


 「ゆ、ゆっくりやってください」

 「善処する」


 ちくっ。

 涙が零れ落ちるのを上を向いて我慢し、魔導書に血を垂らす。

 黒い表紙にすっと文字が浮かび上がった。


 「これで契約完了だ。カーストか」

 「かーすと?」

 「魔導書とは契約者のステイタスや能力、成長度を数値や一覧にしてして表記してくれるアイテムだ。そして魔導書には種類がある。主に五種類。」


 ドーラ:自己防御系の魔法に長け、鉄壁の城塞のごとき強度を得る。

 ガルナーク:近接攻撃に特化した魔法や状態異常を得意とし、俊敏性が大きく向上する。 

 シースラー:援護系の魔術に特化し、支援系の薬品調合や錬成技術に精通している。

 デイン:使える魔法は少ないが、魔神を召喚し契約することで戦うすべとする。


 「シロネの魔導書はカーストと言って、ほかの四種類の魔導書の特性をすべて使うことができるのだ」

 「すごい、何でもできますね!」

 「そうでもないんだ、魔導書は五百ページと決まっている。様々な情報が自身の成長に合わせて記載されるがその記載が最後のページまで埋まると...」

 「どうなるんですか?」

 「契約者は...死ぬ」

 「死ぬんですか...」

 「あまり驚かないんだな」


 一度死のうとした、今更死について特に思うこともない。


 「千年近く生きている我ですらいまだに半分も行っておらんが、カーストの書がどれほどページを諸費するのかわからないのだ」

 「前例はないんですか?」

 「あるが持ち主は人間、寿命で死んでしまった。魔導書は持ち主が死ぬと魂と一緒に消滅してしまう。だから見ることもできんのだ」


 カーストの書の特性についても噂程度の情報しかないらしい。

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