第一話 魔王と後継者

私の名前は白音、日本に住んでいた高校一年生だ。

 生きる気力を無くし、自殺した私は魔王によって転生させられた。

 魔王の後継者として。


 「我がお前の人生に意味を作ってやる。お前を、私の後継、つまり、魔王の後継者とするために転生させたのだ」


 ・・・


 「それじゃあ行こうか」


 そう言って魔王は部屋の扉を開け歩き出した。

 地下室から階段でしばらく上ると外の明かりが見えた。

 出口からまぶしい光が広がった。


 「改めて、ようこそレインへ」


 そこはまるで、アニメなんかに出てくる異世界そのものだった。

 空は薄い紫のグラデーションになっていて。光を帯びた花に空飛ぶドラゴン。


 「こっちだ」

 「は、はい」


 石畳の道を抜けると少し開けたベンチのあるスペースに出た。


 「座って。話をしよう」


 勧められるまま魔王の向かいの席に座った。

 さっきは暗くて見えなかったけど、よく見ると二十代位のさわやかなお兄さんだった。


 「それじゃあ始めようか」

 「我は魔王ディル・ヴァール。ディルでよい。こう見えて998歳だ」

 「きゅっ!?」


 驚きを隠せず思わずリスのような声を出してしまった。

 その姿を見てディルは優しく微笑んだ。


 「我はこの国、レインの国王、そして魔王だ」

 「魔王ってあの悪い魔王ですか?」


 恐る恐る聞いた。


 「まあ、君たちからしたらそうだな。だが、魔王の後継者として今後活躍してもらうにあたって真実を言おう」


 魔王と名乗った男には似合わない優しい笑顔が暗い影に覆われた。


 「実は我ら魔族は、本当は悪者などではないのだよ」

 「昔、人間は姿かたちが違う異質な存在の我らを拒絶し差別しだした」


 そう言ってディルは何かを思い出すように眉間にしわを寄せた。


 「最初は近づきたくないなどの思考から距離を置く程度だったが、しばらくすると彼らは我々を差別するようになった」

 「そんな...」


 その話に出てくる魔族は私の知っている魔族とはかけ離れていた。


 「最初は差別されるだけだった。だが、我々を邪魔に思った人間達は、自分たちの子供にありもしない嘘を吹き込み、我々を悪役として伝えた」 

 教科書や童話などで、嘘偽りを伝えられたようだ。


 「そうして育った子ども達がまた自分たちの子ども達に教えるのだ。奴らは危険だと!」


 目に見えて黒いオーラとともに

 感情を抑えきれないディルは声を上げて叫んだ。


 「すまない、大声を出して。話を戻そう」


 ディルは顔を上げ話を続けた。


 「そんな世界を生きてきて早千年目前、私もそろそろ引退の時期だと考えてな」


 いきなりの急展開にびっくりした。


 「私の堅い頭では彼らと上手くやっていく考えが浮かばなくてな。そこで差別意識の少ない異世界の人間をこの世界に転生させ魔王として育てようと思ったのだ」

 「いきなりですね!」


 話が突然方向転換したので思わず突っ込んでしまった。


 「それがな、一時期は最も知能の高い魔族に魔王の座を渡そうとも考えたのだが。強い幹部達は皆国境付近の警備で命を落としてしまってな」

 「実を言うと魔族は生まれながらに強い弱いがすぐにわかる。そういった者たちを少しでも活躍できるよう国を守るために各地に送るんのだが、すぐに死んでしまってな」

 「割れ以外の魔族の平均寿命は一週間だ」

 「セミ!?」


 衝撃の事実に再び突っ込んでしまった。


 「それも考慮して、お前を転生させた」

 「そう、ですか」


 前の人生に疲れ切っていた自分は、自分でも驚くほどあっさり、新しい人生を受け入れた。

 それどころか楽しもうとすらする勢いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る