【第5生】真の超能力者登場

 引寄が恋華の言う超能力研究部が何なのかを尋ねようとした時、こちらへ向かってくる足音に気付いた。

 保健室の先生が戻ってきたのかと思い、2人は慌ててベッドの中に潜り込んだ。

 足音はちょうど保健室の前で立ち止まり、コンコンと丁寧なノック音とともに扉がスライドされる。僅かにカーテンの隙間から見えたのは、自分と同じ学年と思われる少年だった。

「失礼します」

 至って普通の高校生といった様子の少年は保健室の先生を探して視線を彷徨わせる。

 何故だか酷く気になって、引寄はじっと少年を観察していた。

 染めている訳ではないらしい茶色の髪は邪魔にならない程度に切り揃えられ、澄み渡った湖のように淡い青色の瞳は力強く光っている。フワリとした雰囲気ではあるが、どこか意思は強そうだ。

 引寄が時間を忘れて見つめていると少年が引寄に気付いた。

「良かった、目が覚めたんだね」

 どうやらこの少年が恋華と共に自分を助けてくれた人らしい。

「えっと、お陰様で? ありがとう」

「いや、気にしないでほしい。当然のことをしただけだからね」

 困ったように、照れくさそうに笑い、少年は傍にあった椅子に腰掛けた。

 先程の恋華のように裏がある訳では無い純粋な心配は心の何処かが擽ったくなる。それと同時に入学早々に迷惑をかけてしまった罪悪感が居心地を悪くさせた。

「入学式は終わった?」

 終わったからここに居るのは分かっているのに、何か言わなくてはいけないと気が急いてしまった。

「ああ、僕はもう少ししたら教室に戻らないと。えっと、天定くんだよね? 君はどうするの?」

「俺は帰れって言われてるから……」

「そうなんだ。一人で帰れる? ホームルームが終わるまで待ってくれるなら付き添えるけど」

 どうやら、この少年はかなりのお人好しらしい。この少年が詐欺か何かに遭わないか逆に心配になるぐらいだ。

 引寄は初対面の少年の優しさに感謝しながらも、その申し出には首を横に振った。

「いや、もう本当に大丈夫だから気にしないで。そこまでしてもらうのも悪いしさ」

 引寄が大丈夫だと言っても少年はまだ心配している様子だった。

 ボールがぶつかったぐらいで大袈裟すぎるような気もしたが、当たったのが頭なら仕方ないのかもしれない。

「それなら良いけど……あ、天定くんは僕と同じクラスだったよ」

「えっ、何組?」

「B組だよ。席は離れてるけど、仲良くできたら嬉しいな」

 そう言えば、組み分けを見る前に倒れてしまったのだったか。引寄は心優しい少年が同じ組だと聞いて安心して、そして驚いた。

 少年から提案されなくとも、引寄の方こそ仲良くして欲しいと言おうと思っていた所だったのだ。

「友達になろうってこと?」

「うん。これも何かの縁だと思うし、天定くんさえ良ければ……」

 引寄は黒い瞳を夜空のようにキラキラと光らせ、高校生活最初の友達の顔を見つめた。

 不安そうにも見えた少年の顔は直ぐに笑顔に変わることになる。

「良いよ! 俺の中学からここに来た人居ないし、友達できるか不安だったんだ!」

「じゃあ、明日からもよろしくね。僕は真守まもり 求夢もとむ。呼びやすいように呼んでくれると嬉しいな」

 名前を聞いた瞬間に、引寄は飛び出しかかった悲鳴を飲み込んだ。

 生まれついての超能力者。持っている能力は確か『サイコキネシス』だった筈だ。

 そんな人物と友達になったとして、果たして平穏な生活を送ることができるのだろうか。

 しかし、一度頷いてしまった以上、今から無理だと告げることもできない。

 引寄はどうするのが良いのか悩んで、近すぎず、遠すぎず、普通の友達関係を築くことにした。

「あー、じゃあ、求夢くん? 俺の方も好きに呼んで良いから」

「ありがとう、引寄くん」

 僅かに気まずそうな引寄に気付いているのかいないのか、求夢は嬉しそうに笑った。

 そこまで喜ぶことだろかと不審に思うものの、そのことを尋ねるような時間はないらしい。

 また足音が聞こえてきて、灰色の髪の少年が入ってきた。この少年もまた引寄たちと同じ色のネクタイをしており、同じ学年であることが分かる。

「真守、そろそろホームルームが始まるぞ」

 どうやら求夢を呼びに来たらしい少年は引寄に視線を向けるとニコリと笑って会釈をした。きっと、この少年も引寄と同じクラスなのだろう。

 少年が返事も待たずに踵を返して後ろを向くと、かなり長くまで伸ばした髪を後ろで括っていることが分かった。

「あ、直ぐに行くよ! じゃあ、また明日ね。バイバイ、引寄くん」

「うん。バイバイ」

 求夢は少年と一緒に保健室を出て行った。

 静かになった室内で、引寄は頭を抱える。

「本物の超能力者と友達になってしまった……」

 自分が超能力者であることがバレないように祈ることしか、今の引寄にはできそうになかった。

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