【第2生】 青い炎に包まれて
薄ぼんやりとした世界に真っ青な光が灯っている。
ああ、瞼を下ろしているから、ぼんやりとしか分からないのか。
ゴオオ、ゴオという耳鳴りはまだ続いているようだが、少しはマシになったかもしれない。
手に触れるのは硬い岩のような感覚で、まさかとは思うが道端で放置されているんじゃないかと慌てて飛び起きた。
そこで引寄はまだ意識を取り戻していないことを知った。
「どこだよ、ここ……」
この近辺で、こんなにもじめっとした場所を見たことなんてない。まさか、死んだと思って死体隠蔽のために運ばれたとかそんなことはないはずだ。
引寄は自分がまだ夢の中に居るのだと悟った。
ここはかなり細長い洞窟らしく、その壁には木でできた棚のようなものが並んでいて、なんとも趣味の悪いことに頭蓋骨の形をした燭台がズラリと並んでいた。
瞼越しにも感じた青い光は頭蓋骨から溢れ出ている炎の色で、止むことのない耳鳴りのような音は頭蓋骨の口から零れ出ている風の音らしい。
「流石、夢だな……全く熱さを感じないや」
先が見えないほど向こうまで続いている洞窟と棚。そこに並んだたくさんの頭蓋骨の炎は自分の体を焼こうとはしない。ただ、それを見ていると心が締め付けられるように痛くなる。
まるで、この炎は頭蓋骨の涙のようだ。
何故かそう思った。
「どこまで続いてるんだ?」
引寄はこの洞窟に興味を持って歩き始めた。よくよく見ると、骸骨はそれぞれ違う形をしているらしく、1つとして同じものはない。
「まるで本物みたいだ」
ゾッとしながらも歩き続けると、骸骨しかなかった棚に十字架が飾られているのが見えた。赤色に塗られたそれは骸骨の頭に深々と刺さっていて、それが何を示しているのかは想像しない方が良さそうだ。
十字架の刺さった骸骨の窪んだ瞳がジーっとこちらを見ている。感情の籠らない穴では睨んでいるのか救いを求めているのかさえも分からない。
「この骸骨、他とは何か違うのか?」
十字架が刺さっている骸骨は数百、数千という数の中に1つしか存在しなかった。
十字架を抜いてみようか。そうしたら何かが起こるかもしれない。
ふと、引寄の頭の中にそんな考えが浮かんだ。お風呂に入ったから体を洗おうぐらいの自然な思考の流れだった。
気が付いた時には手を伸ばしていて、骸骨の燃える炎に触れていた。
その炎は生ぬるい風が肌を撫でるような触感で、それをひどく懐かしく感じた。なんだか、前にも炎に身を包まれたことがあるような不思議な感覚だった。
引寄が十字架に触れようとした時、周囲の空気が変わった。淡い金色の光の球がポツポツと灯ったかと思えば、青色の炎は全て掻き消えていた。
『触るな』
「っ!」
その男の姿は闇と同化するようにそこに立っていた。
人の形をしていることは分かる。ただ、顔までもを覆い隠すローブのせいで詳しいことは何も分からない。袖から伸びた両手は黒く、まるでモヤのようにユラユラと蠢いている。
背格好は引寄よりも幾分か大きく、普通の成人男性ほどはありそうだ。
まるで幽霊でも見てしまったような状態だったが、これは夢の中だと分かっているからか、引寄は恐怖を感じることはなかった。
「これに触ったらどうなる?」
『触るな、触っても良いことなんかない』
触ると呪われるとか、そういった類のものなのだろうか。触らなくて良かったと安堵した途端に引寄の体がフワリと宙に浮かんだ。
夢から覚めようとしているのだろうか。
『それでいい。そのまま、二度とここには来るな』
体が洞窟の天井をすり抜けて何も見えなくなる前に、男の体は砂のように掻き消えた。その場所に、青い炎を灯した頭蓋骨を残して。
目が覚めるまであと少し。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます