後天性超能力を身に付けてしまった俺は平凡に生きたい

Raima

後天性超能力者

【第1生】頭を強く打つと人生が変わることがある

 この世界には超能力というものが存在する。

 例えば、触れずに物を動かすことができるサイコキネシスなんかは、使える人が1番多いオーソドックスな超能力だ。

 他にも、相手の心に直接影響を与えたり、未来を予知したり……様々な超能力が存在している。

 昔は100人に1人以上が超能力者だった時代もあれば、今なんかは1000万人に1人しか超能力者が居ない。時代によって捉え方も数も違うそれは今も国によって研究され続けている。

 この物語の主人公である天定てんじょう 引寄ひよりは大多数を占める普通の人間の1人。超能力は持っていない。

 この超能力は一定の年齢を超えてから身につけることは難しいとされていて、6歳の頃に受ける超能力検査で落ちたら、それ以降は変更されることなく無能力者として戸籍にも残る。

 引寄の戸籍にもハッキリと超能力無しと書かれている。

 超能力者が多い時代は超能力を持たない者への差別も酷かったが、今は超能力を持たない者の方が多いので特に不安に思うことはないが、今だからこそ数少ない人間が持つ超能力に憧れる人も多い。

 中には超能力者にしてやると言われて付いて行ったら殺されかけたという、とんでもない事件に引っかかるやつも居るらしい。俺は超能力なんて有っても良いことはないと思っているから、そのニュースを見て馬鹿だなと思ったりもした。

 特別よりも普通が1番。引寄が今日から通う学校にも1人だけ超能力者が入学してくるけど、かなりハードな生活を送ることが決まっていた。

 超能力者はその特別な力から様々な面で優遇されているが、それに伴って周りからの期待も大きい。

 だから、1年生なのに生徒会長にも内定していて、授業自体も参加させられる。

 俺だったら絶対にやりたくない……引寄は大変な役割を押し付けられた同じ学年の超能力者に同情した。

 こんなことを考えながら歩いていたら、危うく学校を通り過ぎてしまう所だった。

 校舎へ続く坂道を同じ制服を着た男女がソワソワとした様子で歩いている。ネクタイの色が青いから、俺と同じ1年生だ。

 友達は1人で良いから作ろう。部活は文化部から適当に選んで、それから……それから……。

 引寄は新しい生活に緊張しながらも、これからの学校生活に思いを馳せていた。

 そんな至って普通の男子高校生になるはずだったのに……いや、普通の男子高校生だからこそなのだろうか。

 次の瞬間、引寄は地面に倒れていた。

「いっ、う? あ?」

 誰かが頭の中でシンバルでも鳴らしているんじゃないかと疑うぐらいの耳鳴りが聞こえる。

 グワングワンどころではなく、ドゴンドゴンぐらいの勢いだ。しかも、段々と強くなってくる。

 それに混じって聞こえてきた内容はとても普通に有り得そうなことなのに、なんだか非日常が近付いてきているような予感がした。

「すまーん! ボールがすっぽ抜けた! 大丈夫か!?」

 どうやら誰かが投げたボールが頭にぶつかってしまったらしい。理解した途端に後頭部の辺りがズキズキと痛み始めた。

 大丈夫じゃないと声を大にして訴えているつもりなのに、自分の声が全く聞こえない。そもそも口がきちんと動いてくれているのかさえ定かではない。

 代わりに耳元でゴオオオオとガスバーナーでも使っているみたいな耳鳴りがして、それに掻き消されるようにして次第に意識が消えていく。

 視界の端に映った青い炎の中に薄ら笑いを浮かべた骸骨が浮かんでいた。

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