父よ

灼熱の太陽に晒され、


人生の苦難に晒され、


思い立てばうまくいかず、


耕運機を操り、


時に転がりながら、


血と汗を拭い、山を登り、


木を切り、薪を斧で割り、


片輪の父よ


なぜ、なんのために、


そのように逞しく生きたのか


手拭いで汗を拭い、


牛を引き、


腰をかがめて田植えを行い、


幼い私に草木の名を教え、


松葉杖を器用に使いこなし、


あらゆることを


まるで健常のように行った。


脱げば筋骨たくましく、


自らはそば一杯、


ときに茶のみをすすり、


私に親子丼を食べさせた父よ


今、思うと涙が出るほどで


その味を忘れ得ぬと言いたいが


露ほども覚えていない


ただ


けしてまずかったはずはない。


いつか、金がないことをわたしは心苦しく


思い、あの定食屋に行くことを断わった


そのとき、なんともいえない顔をしたのは


自らが食えなかったからか


息子に食べさせてやる日々がなくなったからか



父よ


あぁ、父よ



生前、ともに酒を酌み交わしたときが


唯一の孝行だろうか


父よ


そのときの顔をもっとよく見ていればよかった



あぁ、父よ

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