モノヨミ

水田柚

第1話

 やあ、はじめまして。私はしがない中年親父だ。……これだけだとあまりにも淡白だね。うん、とりあえず趣味でも言っておこうか。


 私の趣味は小説を読むことだ。特にネットに転がっている粗削りながら独創的な『原石』を愛読している。特にこの2053年。言語の壁は無くなり、世界中のアマチュアの作品が手に取れるのはまさに夢のような世界だと思う。

 

 だが最近、ネットの作家に元気が無いようだ。恐らく……いや間違いなく原因は電人の台頭だろう。

 

 五年前、ついに完成した人間と同程度の思考と常識を持つ人工知能。それは新たな人種の誕生だった。第四人種『電人』 今やAIという言葉は差別用語になってしまった。ロートルな私は、今でもたまに街中で言ってしまって回りに白い目で見られているよ。


 で、ここ二年間で出てきたのが電人アーティスト。マンガや音楽、もちろん小説も……いや、悪い話ではないよ。昔ここ日本でも女性が社会進出する運動があったらしいじゃないか、それとあまり代わらないと思うよ、僕は。


 しかし、やはりそれを疎ましく思う人は大勢いる。彼らいわく不平等らしい。電人は時間が24時間フルに使えて語彙力も豊富、おまけにマーケットの調査も一瞬で行ってしまう。うん、こうして聞くと確かに不平等かもしれないね。


 正直に言おう、僕はそんなことには興味はない。AIが書いた小説のほうが面白い? 万々歳だ。面白い小説が読めるなら僕はそれでいいよ。二進数の塊が書いた文字には感情が入っていない? じゃあ一つ質問だ。あなたは自分の感情がどこから来るのか、全部説明できるのかい?


 同じなんだ、読者から見たら。大昔の2016年、第三回星新一賞でAIが書いた小説が一次選考を突破した時は誰も文句を言わなかった、むしろ賞賛してたかな? AIにも小説が書けるんだって。


 すべては結果論だ。作品が読者の心をどう動かしたか。そこに自分の評価なんて……いや、心すらも必要ない。その作品に創造性があると読者が思えばその作者に創造性はあると言える。それが人間だろうが電人だろうが条件は変わらない。どうせ同じなら、もう少し自分を信じてはどうだろうか?


 さて、そろそろ時間だ。私は趣味に戻らせてもらうよ。今日はどんな素晴らしい作品に出会えるのだろうか? 楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モノヨミ 水田柚 @mizuta-yuzu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ