第3回 オカルトウィッチ魔女ビーム
## 概要
今回の作品はこちら。
・オカルトウィッチ魔女ビーム
https://kakuyomu.jp/works/1177354054892192507
作者は朝乃日和さんです。
https://twitter.com/asanono159
一気読みしました。売ってたら買うレベル。面白いので未読の方はぜひ読んでください。
また、今回の作者さんは脚本術の知識があるそうでしたので、脚本術要素多めの感想と分析です。
## あらすじ
私、駒綱なずな、17歳。普通の暮らしに飽き飽きしている普通の高校生二年生。だけど『撃ったものを絶対喋らせる光線銃』を偶然拾って、流れで魔女になっちゃいました。そしたらチュパカブラとかくねくねとか謎の触手生物とか、変なオカルト存在の駆除に参加させられてさあ大変。
……かと思ったら案外楽しくてハマっちゃった。気の合うカッコいい魔女の先輩にも出会えて、毎日が楽しいのなんのって。成績はちょっと下がったけれど気にしない。
……なんて感じで過ごしてたら、地球規模のオカルト事件が発生したりして超ヤバイ。世界の未来と私の受験は、もう崩壊寸前です。
(本家から引用)
## 感想
一気読みでした。個人的に大好きです。軽い地の文とか、ネーミングセンスとか、わけ分からんけど結構濃いオカルトネタとか、ラスボスが拍子抜けするくらい有名なやつとか、それらがなんか青春! みたいな雰囲気の中にあることとか、かなり好みです。『Don't trust over 30』は好きですか? 矢部嵩は好きですか? 俺はどちらも大好きです。あなたも好きになってくれたら嬉しいです。矢部嵩は少女庭国と(もし手に入ったら)文学フリマで配布していた真っ黒い短編集がおすすめです。
ここまでは単なるファンレターです。以降、脚本術の知識を使いつつ作品の解説をします。本作、構成的に見ても完成度高いので本編読める人は読んでから下記の分析も読んでみてください。
## 分析
本作、脚本術の観点から見ても良いな〜〜と言うところがいくつかあります。箇条書きにすると、
1. ターニングポイントが豊富
(※ターニングポイントとは物語の進展を感じさせる出来事のことで、それに差し掛かるごとに事態の深刻さが徐々に増していく。)
2. お話の中で扱う感情がプラスやマイナス一辺倒でなく、アップダウンがある
3. 無駄なシーンがほぼない
以下は本作のストーリーを簡単にまとめたものです。カクヨムがプレーンテキストしか許さないので大変見辛いですが頑張って読んでください。数字は本作の章を表しています。また、「|」で3つのエリアに区切っていますが、それは各章における外的問題、内的問題、感情を表ています。ここは脚本術の知識なので簡単に解説を入れると、
・外的問題:主人公が実際問題として取り組んでいるストーリー上の課題。『NARUTO』で言うと暁を倒すなどの主人公の目標。
・内的問題:表立って取り組まれている訳ではないが、この物語を通じで本当に解決されるべき問題。『NARUTO』で言うとみんなに認められたいとかの内面的な目的。
・感情:そのシーンで読者が得られるであろう感情
(『SAVE THE CATの逆襲』(法則の次の巻)では外的問題は触れられるゴール、内的問題は霊的なゴールと呼ばれています)
また、★のマークは物語におけるターニングポイントと言って差し支えないポイント、◆マークは内的問題がなさそうに思えた箇所です。
例. 外的問題|内的問題|感情
------------------------------------------------
1. ★光線銃を拾う|里中から拒絶される|退屈(後悔)
2. ★無限図書館でオカルト狩り、刈谷さん|◆無し|楽しい
3. 無限図書館を深く潜る、★蛇による痣|◆無し|不安
4. やめようかと思うけど躊躇っていると無限図書館、浅い階に戻ろうとするとフィラデルフィアに遭遇、★フィラデルフィアは里中、捕まえる|里中は不安そう|困惑
5. ★無限図書館の真実|一緒にやろうよ倒せるよと里中に伝える、仲直り|嬉しい
6. 仲睦まじい会話、★世界の崩壊、事態は深刻、けど諦めない!|里中と一緒に頑張る|決意
7. 刈谷さん含めてクレオパトラ倒しに行く、★無理ゲーじゃん! けど主人公が知恵絞って打開|みんなで頑張る|無理ゲー、不屈
8. 倒す!|みんなで頑張る|やったぜ
9. 後日談|里中と仲良し|仲良しで最高
こうしてみると、ターニングポイントの多さが目立ちます。ターニングポイントとは、その地点を通過することで物語の危険度がグッと上がるシーンです。主人公はその地点を通ることで重要な選択をし、新しい世界へと進みます。本作は3.5万文字らしいんですが、この文章量でこのターニングポイントの量だとかなり密度が高いと思います。
また、感情については「退屈、楽しい、不安、困惑、嬉しい、決意、無理ゲー、不屈、やったぜ、最高」と言う感じで上下しつつ後半には硬い意志で最終目標に突き進んでいくのが分かります。ラストにもちゃんと無理ゲーだろみたいな展開があり、楽には終わらせず、けど解決して終わりというのが美しいですね。
では、反対にこの物語の改善点を見つけてみましょう。読後は正直何もないっしょ! と思っていたんですが、インターネットにはそれでも指摘を入れてくれる人がいて、カクヨムの作品ページに指摘多めのレビューが一件ついていました。ありがたい!!
そこで指摘されていたのは主に三点です。
1. 導入が弱い
2. 光線銃の喋る設定が活かされていない
3. 刈谷さんの扱いが軽い
これらは正当な指摘でしょうか? 1、3についてはそうかも、と思います。導入シーンで描かれる感情は「退屈」であり、それによって主人公が光線銃を手に取るのですが、退屈さというのは間口が広く誰でも納得できる一方で弱い感情かもしれません。本作で解決されるべき内的問題は里中との和解(もしくは青春的な何か)だと思うのですが、そういう面から何か別の感情を配置することが可能です。安直なところだと里中を見捨ててしまった後悔とか。
また、3の刈谷さんの扱いについては(僕はこれくらいも好きですが)、刈谷さんがいなくてもストーリーが成り立つことを考えると、軽いっちゃ軽いです。しかしこのスピード感あふれるストーリー展開は本作の長所なので、何かメインストーリーに引き伸ばしを加えるより、内的問題に関わる要素を加えるのがいいかもしれません。幸い刈谷さんと出会う第2章では内的問題に関わる要素が特にありませんので、刈谷さんと付き合うことで里中との関係性を間接的に描く、というのも良いかもですね。
まあそんな訳で、前半に里中との関係性についての課題感を描く、というのが可能っちゃ可能です。でもね! 私はね! これくらいがいいと思うよ!! まああんまりやりすぎるとあからさまになるので、塩梅ってやつです。特に青春系の話はそこらへんが難しい。
分析は以上です。あ〜〜面白かった!!!
注意:ターニングポイント、外的・内的問題などは脚本術の書籍によって呼び名が変わるので、疑問に思うかもしれません。あまり呼び名には拘らず理解してもらえると良いと思います。
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