第1話

 小窓から朝日が差し込んできてる。

 時刻は8時。いつもより少し遅めの起床だ。両親が早くに旅立った僕の親代りをしてくれてた祖父が亡くなって、はやくも一年。一人暮らしに慣れてきた僕は、畑でも耕しに行くかと思い、支度も早々に家を出た。国外れの小さな農村はもうすぐ村祭りがあるからか、大変賑わっている。よし、今日も平和だ______________


 って思ってたんだけどなぁ。10分前の僕の気持ち返してよぉ!!僕のまえには今、指定猛獣Sランクのファイヤードラゴンがいる気がする。怖すぎてはっきり見た訳じゃあ無いけど、視界の端に映るこの赤い鋭い爪!!ファイヤードラゴンしかいないでしょ!!!あぁどうしよう。確かにこの村はファイヤードラゴンの生息地にかぶってるけど!!?ワンチャン、クマらへん(クマでも充分怖いけど…)を期待して、顔をゆっくりとあげる。

 あぁもう僕ちびりそう。涙がボロボロ溢れ出てくる。

 拝啓 父さん 母さん 爺ちゃん

 僕はもうすぐ天国に行きます。けっこう早めのお迎えだけど、悔いはない人生でした。

 あ、いや嘘です。悔いありまくりです。村一番の美人 ソノラさんとあんなことやこんなことしたかったなぁ〜って。

 …ごめんなさい。


 ファイヤードラゴンの涎がギラギラと光りながら、僕の頭におちる。生暖かい息を僕に吹きかけながら、ファイヤードラゴンはゆっくりと口を開いた。

 鋭い大きな牙を眺めながら、意識がなくなっていった。


 僕は死んだのでしょうか。きっとここはファイヤードラゴンの胃の中。それにしては随分と冷たいし硬い。ドラゴン級になると胃も強靭だなぁ。なんて呑気なことを考えていると、どこからか僕を呼ぶ声がする。


 べ…

 べ…ン!

 ベンッ…!!!


 僕の名前を呼んでる。なんで僕の名前を知ってるのかは謎だけど、僕の他にもドラゴンの胃の中にいる人がいるみたい。しかも、声がとてもかわいい。女の子だ。

 うっすらと目を開けると、そこには金色の綺麗な髪の毛がゆらゆら垂れてた。この子絶対かわいい。せっかくなら、もう少しこの子に看病されたい!男心に思う。

 するといきなり頭頂部に鋭い痛みが走った。イッタい!なんか硬いやつで叩かれたんですけどぉ?!!急いで飛び起きて、僕のか弱い頭頂部を叩いであろう人を見た。

 そこには、長い黒髪を一つに結わえた、凄く美人なお姉さんが扇子を持って立っていた。

「あら、少し強く叩き過ぎてしまったかしら。ふふ、いい目覚めになったかしら?田舎者さん。」

 凄い美人ではあるが、このツンケンとした態度はなんなんだ。くそ〜。こいつが男だったらやり返したのに〜!せめてもの反抗にと睨みつけてやると、美人さんは若干目を潤ませた。そのまま俯いて、ぷるぷる震えてる美人さん。泣かるつもりはなかったんだけどなぁ。僕が慌てふためいてると、後ろから声がした。

「ウタさん、流石に今のは強く叩き過ぎですよ。初対面の人に強くでてしまう態度は改めましょうと何回も申したではないですかぁ!

 それに、ベンさん!いきなり叩いたウタさんが悪いと思いますが、せめてお話してください。無言で睨みつけるのは結構怖いんですよぉ〜。」

 長い金髪を揺らしながら10歳ぐらいの幼女が、頬を膨らませながら、立っていた。最初に、僕の名前を呼んでいたのは、この子だったのか。僕の頭頂部を叩いた美人さんはウタさんという名前らしい。

「えっと、ウタさん…いきなり睨んでごめんなさい。その、僕を起こそうとしてくれたんだよね。ありがとう。」

 恐る恐る謝罪と感謝を告げたが、ウタさんはまだ俯いたままだった。

「ごめんない、ベンさん!ウタさんは、シャイガールだから気にしないでね!ところでベンさん。君はここに来る前どうなったか覚えてますか?」

 幼女が僕に尋ねてきた。

「確か、ファイヤードラゴンに食べられそうになったまでは覚えてますよ。ここはドラゴンの胃の中じゃないんですか?まぁ胃の中にしては変なところですが…」

 辺りは、白くて硬い部屋みたいな場所だった。胃液は存在してないし、僕たちのほかに生物や植物が存在してない。何もない。とうてい生き物の腹の中とは考えられない場所だった。

「そうです!ここはドラゴンの胃の中では御座いません!ここは、君たちのような身体を失ってしまった者を別世界に転生させる場所ですよ。」

 幼女はいきなり意味のわからないことを満面の笑みで話し出した。ここは、ドラゴンの胃の中ではないらしい。しかし、身体を失った者とはどういう事なんだろうか。現に、僕の身体は存在している。いたって健康的な状態だ。別世界?転生?村の学校では、そんな事習わなかったしなぁ。 そういえば、授業で、人は死んだら生まれ変わると習ったなぁ。それのことかな?

「その、僕は死んだのですか?それで、生まれ変わるってことでいいのですか?」

「いえ、ベンさんは亡くなってはいないですよぉ〜。これには諸事情がありましてぇ…生まれ変わる…確かにその考え方で大方あっています。しかし、生まれ変わる場所は、申し訳ながら、ベンさんがいた世界ではないんです。ニホンという、ベンさんがいた世界とは別次元にある国になるのですが…」

 時折、説明濁しながら幼女説明をしてくれた。なぜ、僕は死んでないのにニホン?という国で生まれ変わらねばならないのだろう?幼女が濁した諸事情の部分が気になる。

「えっと、やっぱりなんで死んでないのに生まれ変わらないといけないのが気になるのですが…?」

 それを聞くと、幼女は決まりが悪そうにうすら笑った。

「えっとぉそれは…____________」

 突然、幼女の声が遮られる。

「それは、そのニホンって国で、不幸にも死んでしまった人を、私たちの世界でもう一度人生をやり直させるためらしいわ。なんでも、そのニホンって国は自殺者が何より多いらしくって、その人たちの余生の為に私たちは、その人たちに残りの人生をあげないとならないの。私たちに、拒否権はないのよ。ふふ、可笑しな話ですよね?それと、先程の無礼は御免なさい。」

 声の主は、先程まで俯いてぷるぷると震えていたウタさんだった。ウタさんは凛とした顔で、ちゃんと正直に全部言わないとダメじゃないのと幼女をたしなめている。

「それじゃあ、いまの僕の身体にはそのニホンから来た人が入ってるんですよね?でも、僕、身体がありますよ?」

「貴方は、今、魂の状態なの。本来は、丸い発光する玉らしいけど、この部屋の中では本来の姿になるの。現実の貴方の身体には、ニホンから来た人…通称 転生者と呼ばれる人が入っているわ。ちなみに、ニホンから私たちの世界に来ることを転生って言うのよ。」

 ウタさんは幼女の頭を撫でながら答えた。そうなのかぁ。僕は魂の状態なのかぁ。…いや、ちょっと待ってぇ!現実の僕は今まさにファイヤードラゴンに食われようとしてたところなず…!?そんなところに転生者さんが転生したら、転生早々にしんでしまうのでは?!

「あの!僕の現実の身体には転生者さんがいるんですよね?!転生早々にファイヤードラゴンに食べられて死んでしまうんじゃないんですか?!」

 すると、くすくすと幼女は笑った。

「それは心配要りませんよぉ〜。そもそもあれはファイヤードラゴンではないですから。もうすぐ、ベンさんの村でお祭りがあったでしょう。その飾りのドラゴンなので偽物なんですよぉ。あまりにも本物に近かった為か、ベンさん気絶しちゃって!なので平気です!」

 あまりにも弾けんばかりの笑顔で僕を見つめてくる幼女。隣のウタさんは呆れた顔をしながら僕を見てくる。ヤメテェ!そんな顔で僕を見ないで!偽物のドラゴンで気絶するとか一生の恥じゃん!穴があったら入りたいっ!そんな僕に転生してしまった人にも申し訳ないっ!そんな僕を笑いながら幼女は続けた。

「申し遅れましたぁ。私は、シャルノーノ。神様です。気軽にシャルって呼んでくださいね!

 この度はこちらの事情で、ベンさんには人生をリアイアさせることになってしまいました。なので、ベンさんにはニホンで新たな生活を送って貰おうと思ったんですけどぉ…えっとぉそのぉ…」

 幼女はシャルノーノというらしい。この見た目の幼さで神様なのかぁ。シャルさんは、話の途中なのに口をもごもごさせてないも言わない。すると、ウタさんがシャルさんの背中を扇子でグリグリしだした。ひぃ神様でも幼女なんだから、そんなことしたら泣いちゃうよ!!

「ウタさん、そんなグリグリやったら、シャルさんが痛そうだからやめてあげてください!」

 それでも、ウタさんはグリグリをやめない。シャルさんよぉウタさんのどこがシャイガールなんだよぉ。

「このくらい大丈夫よ。この子、こんな幼子の様な見た目だけど、ざっと300年は生きてるのよ。

 ほら、ちゃんと事情は言わなきゃダメでしょう!?何回こんな事が起こってると思ってんの?!」

 ウタさんがシャルさんにどんどん圧をかける。シャルさん、意外とお年寄りなんだね…なんとも言えない全てを悟った目を向ける。

「ちょっとぉ。確かに私は300年は生きてるけど、神様界ではまだまだひよっこなんだからぁ〜。この姿なのは、ニホン人にウケがいいのよぉ〜!

 それと、ウタさんやめてください!正直にお話するので!!」

 シャルさんが叫びジタバタし、ようやくウタさんの扇子グリグリが終わる。シャルさんはグリグリやられてた背中をさすりながら、話始めた。

「基本的には、今、ベンさんの身体に入ってる転生者さんのニホンの身体にベンさんが入る形なんです。簡単にいえば、身体を交換するって感じです。それで、ベンさんにはニホンで新しい生活を送ってもらおうと思ったのですが、ベンさんが入るはずだった身体は、トラックっていう、馬車に近い乗り物に轢かれてしまって、ぐちゃぐちゃの状態なんです。

 なので、ベンさんが入る身体がないんです!!」

 シャルさんは、これには私も困ってましてぇ、元はといえばニホンという国の体制がぁ…転生者の受け入れを断ると上司の神様に怒られ…ほんとに減給に…とブツブツ呟いてる。

 しかし、僕はどうすればいいのだろうか。元の身体も無し。入る身体も無し。このまま天国行きかぁ。父さん、母さん、爺ちゃん、僕はやっぱり天国に行きます。待っててください…


「なので、ベンさんには入る身体が見つかるまでここで生活をしてもらいます!!よろしいですか!!」

 いきなり、シャルさんが声を張り上げた。ぼく、ここでせいかつすゆの??

 ウタさんはまた増えるの??とため息をついてる。

「僕、ここにいていいんですか?」

 なんとも間抜けな声で尋ねる。

「いいんですよぉ〜。元はと言えば、私の上司…ごほん!私の責任ですので!居候が2人から3人に増えるだけですので!」

 居候が2人?シャルさんもここに居候の身なのだろうか。ともかく、危うく死ぬかもしれなかったのだ。居候はありがたい。

「居候が2人ってシャルさんとウタさんも居候なんですか?」

「違いますよぉ〜。居候はウタさんと、えっとぉ部屋の隅っこにいる白い毛布の塊わかりますか?そこにいるレオンさんがもう1人の居候です」

 確かに、部屋の隅っこに丸まってる人がいる。あれがレオンさんか。丸まってるレオンさんをウタさんが乱雑に引っ張ってきた。レオンさんは何やら、鏡みたいのをじっと見つめて、ブツブツ呟いてる。何この人こわい!シャルさんはそんなのお構いなしに話を進めた。

「では、全員揃いましたねぇ。改めて自己紹介をしましょう。

 私はシャルノーノ。神様です。この度は私の都合でごめんなさい。しばらくの間よろしくおねがいしますねぇ。」

 金髪を揺らしながらお辞儀をした。

「私は、花宮 ウタよ。貴方とは違う世界…どっちかといえば、ニホンの世界と似てるところからきたの。宜しくお願い致しますわ。」

 確かにウタさんの着ている服は僕がいた世界では見たことがないものだった。ウタさんがレオンさんを無理矢理立たせた。

「うぅレオンです…うっぐすっ。ソフィーをあいしてますぅぅぅ。あぁソフィーーーうぅ。」

 レオンさんはすごい号泣しながら早口に告げて、また鏡を見つめた。

「レオンにはソフィーっていう婚約者がいたのよ。こう見えてもレオンは、魔王を倒した勇者なの。それの祝いの場でお酒を飲み過ぎて気絶。気づいたら転生者に身体を奪われてたってわけ。毎日、この鏡で自分がいた世界を見つめて、自分の見た目で自分じゃない自分と仲良く生活しているソフィーさんの姿を見て泣いてるのよ。

そういう私も、大好きなお兄様と婚約者の環さんが、あの憎たらしい女に惑わされてないか見てる為にここにいるの。」

ウタさんが、思ってたよりも愛が重いレオンさんと思いもしなかったウタさんの本性の2つの暴露をいきなりしてきて僕はビビる。

「そ、それはなんとも素敵な愛でいらっしゃいますことでそのぉ…」

思わず口籠ると、後ろから肩にポンっと手が置かれた。振り返るとシャルさんだった。

「ベンさんには、これからこの2人がここのものを壊さないように見張ってて欲しいんですぅ。2人ともニホンでは有名なキャラクターというやつらしくってぇ。

そうそう。ニホンには、我々の世界を模して作られた遊戯があるらしくて、

レオンは有名なアニメーション…ベンさんの世界では演劇みたいなものです。それの主役で、

ウタさんはゲーム…ベンさんの世界では、女の子に流行ってた小説とかなかったですかぁ?そう!そんな感じの!それの悪役令嬢みたいなポジションなんです。

2人とも劇でいったら、メインポジションでしょう?だからこそ、なんとしてもとの世界に帰りたいらしくって、何回も部屋の物を壊されて大変なんだよぉ。だから、お願い!2人が物を壊さないように見張っててください♡」

シャルさんが悪い顔になってさらに僕に近づく。

「拒否権はありませんのでぇ♡」


あぁ父さん、母さん、爺ちゃん。

僕、どうしても天国に行きたいです。

僕を連れて行ってください。


この悪魔な神様と愛が重い2人のメインキャスト。しがない農民で止めることができるのでしょうか…?


あぁ憎き転生者。君の転生が先だったのか。僕が気絶するのが先だったのか。どちらが先かは存じませんが、


君が転生してきたせいで僕は一体どうなるのでしょう??

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君が転生してきたせいで!! ひとり @uia_03

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