第3話

 男爵は用意周到だった。

 私は男爵と小国の平民の間に生まれた庶子で、今まで小国で暮らしていたことになっていた。

 しかも私が売春婦をしていた小国ではない。

 全く反対側の、名前も聞いたこともない小国だ。


 実は男爵はその小国の生まれで、大国の生まれではないという。

 貧民に産まれた男爵は、最初冒険者として名を売り財を成し、一転商人として巨万の富を蓄えたという。

 冒険者としての勇名は、小国では勇者と称えられるほどで、戦闘力もずば抜けているという。


 だが男爵は、どれほど命を賭けようと、小国で自分や仲間だけで手に入れられる物は限りがると見切りを付けたそうだ。

 仲間と共に大国に移住し、そこで冒険者として蓄えた金と珍しい素材を元手に商売を始め、冒険者上がりの度胸と腕っぷしで、瞬く間で王都で一番の大商人に成りあがったそうだ。


 私が誑かせなかった男だ。

 さもあろうと思う。

 しかも丁度大国ゴードン王家が財政難で苦しんでいる時だったのがよかった。

 王家が准男爵の位を金で売り出したのだ。

 金貨百枚と言う大金にもかかわらず、男爵は昔からの仲間の分も含めて、二十家もの准男爵位を購入したという。


 しかもそれから、二十人の仲間と手弁当で国境紛争に参戦に、多くの功名をあげて、全員揃って士族の准男爵から貴族の男爵に成りあがったというのだ。

 しかも国境紛争時に、共に戦った味方貴族だけでなく、敵国貴族ともコネクションを構築し、商人としての販売網も手に入れたというのだ。

 本当に抜け目のない男だ。


 そんな男が次に狙ったのが、大国ゴードンの実権だったのだ。

 だがいかに才能がある男爵でも、正攻法で貴族たちを押し退けるのは不可能だと考えたのだろう。

 私にはどれほどの障害があるのかは分からないが、あの抜け目ない男爵が諦めるくらいの大障害だったのだろう。


 だが正攻法は諦めても、搦手までは諦めなかったのだ。

 そして私が選ばれた。

 王太子を籠絡して、私を通してゴードン王国の実権を握ろうと言うのだ。

 望むところだ!

 私の魅力で王太子を籠絡してみせる!


 だが男爵の為ではない。

 私自身のために王太子を籠絡するのだ。

 男爵の支援が必要な間は、男爵の言いなりになろう。

 だが、私自身が確固たる地位と力を手に入れたら、男爵を切り捨てる。

 何時までも男の言いなりになる気はない!


 男爵も王太子も、必要なくなれば切り捨てる。

 すべて私が力を手に入れるための道具でしかない。

 だがまずは、王太子を籠絡するところからだ!


 

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