第2話

 私は大国の男爵だと言う男に買われた。

 最初は一晩だけだった。

 男爵を喜ばせたら、金貨十枚をくれると言うので、技の限りを尽くした。

 その後で、大国の言葉で話かけられたから、大国の言葉で返事した。

 早口で色々質問されたので、その全てに大国語で返事した。


 次にダンスに誘われた。

 部屋は色事のためだけの狭い部屋だったが、男爵のリードがよかったのもあって、上手く踊れたと思う。

 男は私を身請けした。

 金貨百枚と言う大金を払ったと言う。


 馬鹿げた大金だが、その大金に相応しい仕事をさせる気なのだと思った。

 望む所だった。

 男爵の眼を見ればわかる。

 野望を秘めたぎらついた眼だ。

 鏡に映る私の眼と同じだ。


 私を利用する心算だろうが、私も男爵を利用する。

 成り上がって見せる。

 誰に私を抱かせる心算かは分からないが、誰だって構わない。

 今までと同じだ。


 男爵に付いた方が成り上がれるのなら、男爵の力を利用する。

 抱かれる相手が男爵より強いのなら、乗り換えるだけだ。

 男爵を殺し、次の男を利用する。

 だが慌てて動く気はない。

 貴族社会の強弱がよく分からない。


 爵位が高ければ強いのか?

 それともそれ以外の強さの基準があるのか?

 男爵の表と裏の味方を全て知っておかないと、落とし穴に落ちるかもしれない。

 せっかく強い後ろ盾を得たのに、自分で殺してしまっては馬鹿らしい。

 時間をかけて、裏の裏まで調べあげて、本当の事を知るのだ。


 直ぐに罠を仕掛ける相手に送り込まれると思ったが、男爵は慎重だった。

 大国の言葉、リヴァン王国語を徹底的に教え込まれた。

 しかも貴族が使うような上流階級の言い回しを仕込まれた。

 礼儀作法はもちろん、ダンスまで叩き込まれた。

 ぞくぞくした!


 私はただの性奴隷として送り込まれるのではないと分かったからだ。

 男爵令嬢として、王立学園に送り込まれると教えられた。

 男爵が指示する貴族の御曹司を籠絡するのだ。

 望む所だ!

 いや、男爵の眼を盗んで、男爵が狙う以上の御曹司を誑かせて見せる。


 王子が学園にいるのならば、王子を誑かし、王妃の地位を手に入れてみせる。

 問題は年齢だ。

 私は自分の正確な歳を知らない。

 それにずっと売春宿にいたから、妖艶過ぎる。

 だが王妃になって、国を好きなように動かせるのなら、清純に化けてみせる。


 男爵の力を借りて、男爵の指示に従っている振りをして、実力を養った。

 寝る間も惜しんで努力したかったが、それでは女性としての魅力が落ちてしまう。

 努力と休養のバランスを考えて、最善の配分で練習に励んだ。

 一年後、男爵から合格をもらった。


 その間性技を鈍らせないためと、男爵を籠絡するために、毎晩男爵の寝室で励んだが、遂に男爵を籠絡させることは出来なかった。

 こんな男は初めてだ!

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