其之3 生まれた理由

 魔法の先生ナロリィ……おっと、小隊長のナロリィから、魔法について教わった日から二日ばかりが経った日の事。

 女神から聞くに、私が今いる街は「エンゼルルーブネス」と言われており、その「エンゼル城」と言う浮いている城で寝床を貰っている私だが、中には図書館も完備されている。

 この二日間は起きては図書館に向かい、本を読み漁っては寝て、起きては図書館に向かうと言う、何ともガリ勉地味た行動を行っていた。


 まずは小手調べにと思い「世界」について調べてみたが、この世界は【アドラ】と言われるそうだ。大陸は大きく分けて左の「カバル大陸」、左より小さい右の「ルーズィ大陸」になっている。私が居るのは、左の大きな「カバル大陸」。

 して、この世界【アドラ】には様々な種族が生き住んでいて、人間を始め、エルフ、天使、ドワーフ、獣人、魔物……などなどだ。


 次に「歴史」と「法律」について調べてはみたが、これまた分厚い。

 面倒なので重要そうな部分だけ読んでも見ると、アドラは遥か昔、それぞれ別種族に良好な関係では無かったそうだ。と言うよりは、同じ種族以外の全種族を敵視していたと言われる。しかし、あくまでも敵視だったが故か、戦争等が起こった訳でも無い。


 そして千年前。カバル大陸で一年もの長き大戦争――後に一年戦争と言われる様に――が起きた。これによって、カバル大陸に住む五分の三もの生命を失ったと記されている。

 女神はこれ以上無駄な争いを止めるべく、それぞれ種族の代表者を呼び集めての「種族代表会議」が行われ、種族平和同盟法。略して『平和法』と言われる法が結ばれる。


 それからは「種族代表会議」は十年に一度のペースで行われていき、様々な法が決まっていく。

 「種族別住領域」は、九百年前に決まり、種族が暮らせる領域を区別していった。つまりは、天使の領域、獣人の領域、人間の領域……っと種族別の領域を作り、その領域内で違う種族が暮らす事は出来ない。泊まる事は出来るそうだが、三日間まで。


 ――思えば、女神の許しで寝床を貰っている私は、今日で三日目の暮らし。此処は天使の領域内なので、今日中に出ないといけないわけだ。


 しかしそれとは違って例外が二つ程ある。

 ひとつ目は、このカバル大陸の中心にある【ミックスガルド・タウン】と言われる、どの街よりも一際大きな所。そこでは全種族が暮らせる領域になっている。

 ふたつ目は、ハンターとなる事。

 ハンターの者達は種族別住領域の決まりである種族別が三日間しか泊まれない。っと言う事は無くなり、好きな期間まで宿の方で泊まれる。

 だが、ハンターであれど三日間までしか泊まれない場所が「天使の領域」「魔族の領域」「精霊の領域」とされている。

 結局私は此処から出ないといけない訳だ。


 ざっとこんな所か。

 他は「魔法」について調べてはみたが、何だか知っている魔法ばかり――既視感見たいな――という感覚が強く、これと言って新たな知識は得られなかった。

 何故私は、魔法の構成について最初から知っているのだろうか? 謎だ。

 有利感があって良いんだけど。


 っと言う訳で、今日旅に出ないといけない訳だし、今すぐに魔法を応用した拳の修行でもしようかと考え、朝早くに起床。鏡の前で慣れてきた長い髪を整え、あまりバラけない様に右と左の後ろ髪の尻に髪留めをする。


「よしっ」


 今日も可愛いな私はッ。……いい加減この自分の姿を見てトキメクの自重したい。ナルシストみたいだ。

 などと思いつつ、前に天使達が訓練場として使っていた所で修行をする為に、部屋から出ようとした時だ。


『こっち――』

「……?」


 響き渡ってくる声に気付いた。それも、直接頭の中に語りかけて来るように。

 私はキョロキョロと部屋を見渡すが、何も無い、見慣れた部屋。

 だけどこの声、確か最初の――


『こっちです』

「どっちだよ」


 思わずそう答えてしまう。


『あ、聞こえるのですね。良かった』


 姿形は見えないが、安心している様にも感じた。いや、現に安心したのであろう。


『今から、お会い致します』


 そう告げるや否や、部屋の中心に光の粒子が少しづつ、少しづつと何も無い所から現れてきた。

 驚きつつもその一点に注目していると、光の粒子は一つに集まっていく。大きく大きく、それは塊になっていき、急に光が強くなった。それに思わず目を強く瞑る。

 瞼裏から光が無くなったのを感じると、恐る恐る瞼を開く。光の粒子は無くなってはいたが、あるモノが浮いていた。

 否、少女が。


「………………」


 幼い体をして、童顔が少し残った顔。長髪に少々ウェーブの掛かった薄い金髪に、ヒラヒラとした服を着ている。

 見入って居ると、閉ざされていた少女の黄色い瞳が完全に開いた時と同時に、浮いていた彼女の足が地に着いた。


「……え、ちょ」


 どうしたものか、急に足をグラっとさせて前に倒れそうになった所を、私はすかさず少女の両肩を持って支えた。

 軽い、とても。体重は三十も無いんじゃなかろうか。

 そんな考えをしている間も、今度は膝をも曲げて、本当に前に倒れようとしていたが、次はお腹部分を持って後ろに倒し、後頭部を左手で枕代わりにさせて仰向けにした。

 やばい、私以上に髪サラサラしているじゃないか。などと場違いな考えをしていた私を、許して欲しいものだ。


「えっと、大丈夫?」

「…………」


 尚、謎の少女は無言の模様。


 いや別に、返事求めてた訳じゃないから良いけどさ。良いんだけどね。そんなんで挫けないからね? ……あ、でも本心ではほんの少し挫けたかも。


 少女は両目を私に向け、パチクリと瞬きをしていた。可愛い。

 じゃない。いや、可愛いけどッ。なんだか生まれたての赤ちゃんみたいだな。


『すみません。声は、どうやって出せるのでしょう』

「いや、そんな当たり前な事言われてもね」


 よもや本当に赤子か。


『あと、何だか少し。苦しくて』


 そこまで言うと、少女はぎこちなくも両手を喉と、小さな胸元を抑えた。


『気が、遠く――』

「…………ッ!?」


 私はすぐにも、ほんの少し開いた口元に手を当てた。

 息をしていない。彼女が喉と胸を抑えていたのは、息が出来ていないから苦しくなっていたのだろう。

 どうすると言うよりは、もう何をするべきかは決まっている様な気もする。

 すぐさま彼女の顎を少し上げ、鼻を軽く摘み、息を大きく吸ってから開いた口に顔を近づける。少し驚いた様な表情を彼女は見せ『何を?』と問いかけたが、それに答えず、お構いなしで息を吹き込んだ。

 簡単に言って、人工呼吸である。それを一、二度だけ行い、柔らかい彼女の唇から口を離した。


「どう? 次は自分で息吸える?」

『息……』


 確認がてら、彼女のお腹に手を置く。

 最初は微力な上下運動ではあったが、それは次第に大きくなり、口元で小さく「すー、はー」と聞こえた。

 ちゃんと呼吸出来ていると確認を済ませ、安堵の息を吐いた。

 しかしまあ、呼吸が出来ない人とか初めて見たぞ私。赤子でさえ出来ると言うのに。……出来るよね?

 そこまで知識も無い私の思考は、とてもどうでも良い事を裏では考えつつも、表ではちゃんと少女の心配をする。


『あ、これが。呼吸』


 この子は赤子以下なのか? いや、そんな失礼な事を言ってはならんな。


「……ぁ…………」


 次は彼女の口がほんの少しだけ動き、小さくそんな声が聞こえた。恐らくは、声を出そうとしているのだろう。

 何度か同じ発音をし、徐々に違う言葉が出てきた。


「ぇ……ぅ、え…………」


 その様はまるで、人造人間か、人型機械が出来上がったばかりの子の発音練習の様だ。

 だが、予想だがそれに近いのだろう。見る限り、この子は"生まれたばかり"と見て間違いはないだろう。もしも違うと言うのならば、相当強く頭を打った記憶障害の者くらいか。

 まあ、記憶障害の者でも、呼吸は出来ると思うのだが。少なからず、この子は記憶障害でも無い。何故なら、現れたから。光の粒子から人が。

 そしてこの子が、頭に響き渡る声の主とも言えるか。


「だいた、い。掴ん、で……きま、した」

「ふむ。それは良かった」


 声が出せるようになってくるのを、私は片時も眼を離さずに見ていた。また彼女も、私を見続けていた。

 とてもではないが。眼を離しづらい状況であった。正直恥ずかしい。超恥ずかしい。と言うか思わず彼女に恋焦がれそうなほど。


『本当は、こちらで話した方が速いのですけどね』

「ちゃんと声で出したほうが練習にならない?」

「……う、ぅ」


 ちょっと嫌そうな顔を見せるも、彼女は口を動かしていた。


「すみま、せん。たぶん、もう……立てる、と、思います」

「そう? そっちはまだ無理しない方が良いんじゃないの?」

「いえ。立って、みたいん、です」

「うーん。まあ、ゆっくりね」

「……はぃ」


 彼女の意気込みを買った私は、彼女の体を言葉通りにゆっくりと前へと持ち上げていく。

 彼女は無意識にも近くのベットに片手を添え『あとは自分で立ってみます』と、口では言わず、直接的に私の頭の中で言った。


 両手を離すと、ガクリと片膝を折りかけたが、踏ん張って立とうとしていた。脚はガクガクと震えていいる様子は、宛(さなが)ら生まれたての馬の様にも見えた。

 そんな場面をしばらく見続けていると、彼女はベットから手を離し、まだ少し震えてはいるが、ようやく両足で立っていた。

 そしてふらふらとした足取りで私の近くへと歩もうと、一歩、一歩と遅くも着実に歩いていた。


『やった。歩いてます……私歩いてますよ!』

「うん、おめでとう。でも口で喋ろうね」

「うぅ……」


 喜びに満ちた声が響いたが、次に見せたのはまたちょっと嫌な顔をした表情。

 上げては落とす。基本です。


 屈(かが)んで居た私に、彼女は片手を肩に乗せてきた。


「あ、歩けました。やりました」

「おめでとう」


 可愛くて思わず彼女の頭を撫でてしまった。相変わらず気持ちの良い程触り心地が良い。やはり私以上ではないか。しかも可愛い幼女。……はっ、いかん。気を取られてはダメだ。

 気を取り直して見ると、「何だか、落ち着きます」と彼女は言い、緩やかな表情を見える。可愛い。じゃなくて。


「それで、貴女は誰?」


 取り敢えず、私は最大の疑問を吹っかける。


「えっと、神です」


 うわっ出たー、神出てくるパティーン。


「……えー?」

「本当ですよ」

「えー?」

「私は、貴女様の体を作った、神でもあります」

「えー……?」

「……ほ、本当です」

「うん、まあ信じなくもないけど」


 そろそろ茶化すのを辞める。

 一言で神とは言われど、こんな幼女が? と言う疑問が色濃いのであるが、声を直接私の頭に響かせたり、光から人が出たりする時点で色々おかしいのである。

 まあ彼女がそう言う能力持ちとかなら分かるが、会って早々に呼吸が分からず、窒息死しようとしていた所を見ると、それもむず痒い。演技というのもそれは無いだろう。

 ―――では本当に神と信じるのかと言われると、そうでもない。半信半疑な状態だ。


「そうですね。此処は一旦、私が神かどうかは置いときましょう。それはいずれ、分かるかも知れませんから」


 一呼吸置いてから、神と言う幼女は言葉を続けた。


「まず、貴女様を作ったのは、私です。最初に、粒子が固まって私が現れるのを見たと思われますが、元は人の元素です。

 それで、貴女様の体を作り上げました」

「人の、元素」


 ふと思い出したのは、人と言うのは、一つ一つ小さな元素が固まって出来上がっている物だと、習ったことがある記憶だ。

 即ち人の……その、細胞と言うか一部と言うべきか。どうも此処は説明しづらい所なのだが、人は何百何千万もの元素の塊だと言えば納得してくれるだろうか。

 たぶん神は、それの事を言っているのだろう。


「はい。しかし、最初は体を作っても、肝心の中身。魂が器に入っていないので、動くことも無いただの人形同等でした。

 そこで、別世界から生きている人の魂を抜き取り、器に魂を入れたのです」

「待って」

「はい」


 いや、待って。


「えっと、その。魂抜かれた元の世界の私は、どうなってるの」


 魂の無い器は、ただの人形同等と、彼女は言った。そしてそれを埋めるために私の魂を抜き取り、この体に移し替えた。

 ならば。ならば前の私の体は人形同等の屍じゃね!?


「それでしたら問題はございません」

「お、もしかして問題なく動けてるの?」

「いいえ、家ごと燃やしましたのでもうその器は無いですよ」

「ふぁ!?」


 うぉい神、おいこら神。さすがに神がして良い事じゃないでしょ! 何故燃やした!? いやまあただの人形になってるよりはマシだけど、家ごと燃やすってあんまりだろ。

 幸いにも一軒家の一人暮らしだったから良い物の、マンションとかなら多大な迷惑だった。

 あぁしかし、こうなるなら親とかに別れは告げたかったなぁ。泣き虫な友人は、今頃泣いているだろう。うむ。


「もう、宜しいですか?」

「え、うん。オッケー」


 実際何もオッケーでは無いが、もうどうしようも無いのだろうと諦めが付き、私は神と自称する幼女の声に耳を傾けた。


「それで、貴女様にはこの世界を救って欲しいのです」


 うわっ出たー、世界救ってくれパティーン。テンプレ過ぎ。


「と、言うよりは。あちこちにある"闇"を浄化して頂きたいのです」

「"闇"とな」

「はい。既に貴女様には闇を浄化する力がございます」


 闇を浄化する力。なるほど、それは面白そうじゃないか。その力を使って、世界にある闇を浄化すれば良いのか。

 闇に覆われた世界を、光で晴らす。何て素敵で厨二的物語だろう。

 正直あまり素敵でもないのは内心内緒なんだが、面白そうという言葉に嘘偽りは無い。


「どうやるの、浄化って」

「そちらは簡単です。闇を抱いている者の肌に直接触れるだけで、勝手に浄化されますよ」


 あぁ、世界にある闇って、人にある闇なのね。てっきり魔物とか魔獣とか、そんなのだと思ったのだが。

 いやそこは深く気にせずとも良いか。いづれにせよ、闇を浄化することに変わりはない。

 しかし――


「そちらって事は、その前は何かあるの?」

「おやおや、中々鋭いですね」


 神エキルは、困ったような表情を浮かべた顔をほんの少し傾け、人差し指で頬を軽く掻く。

 当たり前だ。こんな面白そうな事、ただ一つの言葉も聞き捨てならない。気になる箇所は聞いて見るものだ。


「そうですねー。ただ闇雲に、闇をお持ちの方に触れるだけでは、浄化はされません」

「やっぱし?」

「はい。ですが、やり方は一つ……いえ、二つしかありません」

「ふむ」

「一つは、その者の強い願い。願望を叶えさせてあげる事です」

「強い願い?」

「ええ、人生の中で一番叶えたい願いとも言います」


 強い願望、ね。それは少々ばかし厄介だな。人間というのは、本当に難しい願望ばかりを抱いているモノだ。

 例えば金持ちとか、不老不死になりたいとか、そう言う無理難題の願いばかりで、本当に無茶振りであろう。その場合は素直にもう一つのやり方か。


「で、もう一つのやり方は?」


 一つは、願いを叶えさせてあげる事。

 では、最後のもう一つはなんだろうか? 願いを叶えさせる事以上に難しいのならば、そっちは諦めるのだが。


「えっと。たぶんこちらの方が簡単だと思います」

「じゃあ何で難しい方を先に教えたしッ」


 難しい方を先に教えるとは何事か。神妙な嫌がらせだぞこれは。


「さあ、何ででしょーか」


 するとエキルはくるりとその場で一回転し、愛らしく笑顔で答えた。

 くっ、可愛いじゃないか。神のくせに。


「いやそう言うのは良いから、教えてよ」


 茶化してくるエキルに私は急かしてみると、そう遅くもないタイミングで表情を一切変えず、残酷にもこう答えたのだ。


「殺してしまう事ですよ」

「…………え?」


 表情とは裏腹に、酷な事を言ったエキルの言葉の意味に、私は唖然としていた。


 整理しよう。まず、闇を浄化させるには二つのやり方があり、一番難しい方法で、相手の強い願いを叶えさせて上げる事。

 そして、そんな願望を叶えさせて上げるよりも唯一簡単な最後の一つが、その闇を持った者を殺すこと。

 それが闇を浄化させられる二つの方法。たったの二つしか無いと言われる方法らしい。


「ね、簡単ですよね? 安心して下さい、貴女様の体を作る際、色々弄って強くしていますので、大抵の者には負けません。なので、殺してしまうのは簡単な事なのです」


 あくまでもにこやかにそう続けるのは、目の前に立っているエキルであった。

 まるで殺す事に何の躊躇も覚えない様に、淡々と、言葉に迷いもなく喋る。


「身体能力であれば、もちろん人間以上に強いですし。魔力であっても膨大な量ですから」


 エキルは私の体の事を誇らしげにも詳細に称した。その体であれば、人を殺めるなど造作も無い事なんだと。完結的にはそう意味合いなのであろう。


 何故この神は、人を殺す事に何の感情も表に出さないのだろう。神の言って良い事なのかと、疑問に思う。

 私はその疑問を、あやふやにした言葉で口にした。


「……私に人を殺して欲しいの?」

「いいえ、出来れば願いを叶えて欲しいですよ」

「あぁ、それなら良かった。かな?」


 あっさりと帰ってきた言葉に、私は安堵した。しかし「出来れば」と言う言葉が少々腑に落ちないが、殺して欲しいと言われるよりは数百倍マシな返答だろう。


「難しいかもしれませんが。やっては、くれませんか?」


 次にエキルは真剣な眼差しで私に問い掛けてきた。


 世界にある闇を浄化する事。その闇を抱いている者の一番の願いを叶えさせてはくれないかと。

 それはとても簡単じゃない事ぐらい誰でも分かる内容。最初こそは面白そうな事だとつい思ってしまったが、此処まで来るとそうも言っては居られない。

 しかし、面白そうと思う以上に、やってはみたいと言う感情が湧き出た。

 それに、頼んでは居ないのだが、面白そうな世界で生きるための体をくれた神。その神が直々にお願いする依頼。やらないと言う方が恩知らずだろう。


 まあ本当の本当に頼んでも居ない恩なのだが。


 それでも、やってはみようと思った。


「分かった。出来る限りだけど、やってはみるよ」

「良かった。ありがとうございます」


 喜びに満ちた笑顔を見せられ、私も釣られて笑ってみせた。


「っと、そうだ。私の体を作ったなら聞いておきたいんだけど」

「はい」


 ふと思い出したことを、私はエキルに聞いてみることにしてみた。


「魔力って、隠す事出来るの」

「隠す、ですか?」


 頭の上にクエッションマークを上げるエキル。

 魔力が出ていると周りに言われている状態で、日々を過ごしたくはない。そもそも、何で私には見えないんだと疑問にも思うのだが、魔法の本によると、どうやら人間以外の者には魔力がこう、オーラの様に見えるそうな。


 戦闘力五千二百……雑魚だな。と一目でばれるそうな。


 そんなの嫌に決まっているだろう、願い下げだ。


「んー、本当はそんな方法無いのですが」


 エキルは「まあ、大丈夫でしょう」と言い、私の片手を両手で包み込むようにした。

 すると、私の中に何かが入ってくる。そんな感覚が手の先から着て、やがて全身へと回った。とても不思議な感覚だった。


「はい、これで周りからは見えませんよ」

「おぉ……」


 言えど、自分の体にある魔力は見ることは出来ないのだが、神が見えない様にしたと言うのなら、本当なのであろう。きっと。


「それでは、早速旅に出てみませんか!」

「唐突ね」

「当たり前です! 旅ですよ!? 冒険ですよ!? とっても楽しそうじゃないですか!!」


 目をキラキラをさせ、ズイズイと私に顔を近づけるエキル。尻尾でもあれば、今頃ぶんぶんと振っているであろう。

 そんな姿を見て、私は苦笑を隠せずにしていた。


 しかし旅。楽しそうなのは私も同意見だ。見たこともない異世界を冒険なぞ、人生で一番楽しそうな事じゃないか。人というのは、未知の領域を楽しむモノなのだ。


「まあ、うん。そろそろ此処から出ないともいけないし……旅に出ますかぁ」

「やったああぁぁーッ!」


 無邪気にも部屋の中をはしゃぎ回るのは、誰とは言わせない神の者。正直、本当に神なのかと今でも思ってしまうのに、更に疑ってしまうではないか。

 だが可愛い。そんな姿が微笑ましい程に。


 ―――守りたい。この笑顔!


 つって、神を守るとか笑止千万だろう。立場上、逆に守られる側なのでバカらしい。

 さてさて、それよりも旅だ。此処、天使の領域であるエンゼルルーブネスに住み着いてから、今日でもう三日目。天使でもない私が泊まれるのは、三日間だけであるがために、もう旅に出る以外道はあるまいて。

 本当は修行して十分に力を付けてから旅立ちたかったのだが、こうも目の前の神が喜んでいる様を見せられては、そうも言っては居られない。

 まあ旅でもしながら地道に修行でもすれば、なるようになるさ。

 おまけに、神が言うには私の身体能力は凄いらしいし。色々どうにかなるだろう。

 否、どうにかなってしまうのだろう。


「んし、まずは女神さんに、別れの挨拶でも済ませますかね」

「あ、私は用意する物がありますので、街の外でまたお会いしましょう」

「んっけぃ」


 私の返答を聞いた直後には、現れた時とは逆再生の様に体が光の粒子となり、それはやがて消えていった。

 神の消失を見届けた後、今の今まで折っていた両膝を一直線に立たせ、女神の一室へと足を運ばせたのだった。


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