其之2 魔法とは
少し話をしよう。
「シノッち」と言う、私がよくオンラインゲームなどで使う名前がある。
由来は無し。ただ単にこれで良いや気分で適当に作ったのだが、次第にそれが気に入ってしまい、何時しか他のゲームでもその名前しか使わなかった。
ちなみに「ッ」は「っ」に変換して使う場合もある。これは、よくあるオンラインゲームの『その名前は現在使用されております。他の名前をご使用~~』と言う大変面倒くさいそれの回避の為。ただそれだけである。
――以上だ。
場所は変わり、女神の部屋へとお邪魔する事になった。
「此処では何ですから、私の部屋でお話を致しましょう」と言われ、建物か王宮かも分からない上へと上がった。
豪華な一室の部屋でふかふかなソファに座った私を見て、女神は低いテーブル越しの向かい側にある私が座っているのと同じソファに上品に、にこやかに座った。
天使ノ軍団『エンゼルロード』の隊長ミリアは「これから訓練があるので失礼する」とだけ言い、小隊長のナロリィを連れて何処かへ行ってしまった。
「さて、シノさん。初歩的な質問で申し訳無いのですが、貴女は人間ですか?」
本当に初歩的な質問であった。
「え、人間、だけど……」
あまりの質問に、私は内心焦っている。おかげで最後らへんから声が小さくなってしまった。
相手が私を見て「人間ですか?」と言われれば、無論誰しも「そうですよ」と答えるだろう。
しかし、この天国か異世界かも分からない世界に、前世は男であったのに女体となってしまっている辺り、本当に自分が人間なのかすら分からない。
と言うか鏡で見てもないので余計分からない。
私は怖くなり、また自分の顔を触ってしまう。耳や頭、首とか色々。
触る限り、耳がエルフや悪魔の様に尖っているとか、魔獣の様に角かあったり、獣人の様に獣耳が生えてるとか。はたまた、魚人の様にエラが出来ているとかは無かった。だから人間だと信じたい。
――いや、獣耳が無かったのは少し残念かも。
「すみません、特に外見は人間ですよ。けど……」
私の仕草にクスリと小さく笑う女神は、最後に複雑そうな顔をした。
「シノさんから"魔力"を感じるので、つい」
「え?」
魔力? 今、魔力と言ったか?
よくあるRPGゲーム(ファンタジーゲーム)で言う所のMP(マジックポイント)か?
つまり私はそのMP――即ち魔力があると。
まじか。まじですか。今すぐその魔法体験してみたいっ!
衝動に掻き立てられるが、いや落ち着けと私は衝動心を沈めた。
確かに魔法が使えるというのは魅力を感じられる。しかしだ、今はお話タイムなのである。
「えーと、人間が魔力を持つ事って、それほどおかしい事なの?」
「いいえ、人間さんが魔力を持っている事は、希少ではありますが居る事は存じております」
あ、しょなの? 何か少し残念だ。
自分だけ特別と言うのなら、凡人からすればそれは憧れるモノであろう。
しかし希少ながら居るのであれば、レアな人として見るだろう。
まあレアな人だけでも結構称賛に値する所か。
だが、人間が居るかもどうかも知らない中、女神は「希少ではあるが居る」と言う。
それはとどのつまり、この世界は天使だけしか居ない天国と言う訳では無さそうだ。
天国では無かった。最低限人間が居て、天使が居て、魔法が使える。……うむ、これは異世界だな。
そう確信した私に、女神は言葉を続けた。
「しかし、シノさんの魔力は、その希少な人間さん達の持てる魔力の遥か上を行っております」
「え?」
思わず同じ言葉を出す。
「大体、そうですね。ミリアさんより上に値するのではないでしょうか」
ミリア――あぁ、あの隊長か。確かに強いのだろう。
だが如何(いかん)せん、そのミリアの強さが全くもって分からない。
舞い上がれば良いのか、何喰わぬ表情をすれば良いのか。
いやまあ、隊長なんだし弱いってのも無いか。
あの百合好き隊長は、やれば出来る奴何だろう。
それに、人間の持つ魔力よりも多いとなるのだから、私は人間の中でも随一に凄い事となる。誇るべきか。
「そんなシノさんが、どの様なご用件でこんな場所まで?」
「ん、えー……迷子です」
「あらあら、まあ」
強(あなが)ち間違いではない。人生の迷子と言っても過言ではないだろう。
主に女体になっている所為で。
まあ、何て事は無い。秘密にしておきたいのさ。
「よくも分からない場所で目覚めて、ふらついてたらあそこに居たってだけで」
「なるほど。故郷はガルデセルでしょうか?」
何処だよガルデセル。
表の感情では決して出さず、裏で苦笑する。
「日本です」
「ニホン?」
聞き慣れない地域名に、女神は首を傾げる。
頭にクエッションマークが見えるのは気の所為か。
しかし日本。これは間違ってもいない、本当の事だ。
無駄に嘘でも言って話が合わなくなると疑われるので、所々は嘘を、所々は本当の事を言う。
「結構何も無い場所で、強いていうならば超田舎な場所かな」
「そんな所があるのですか。世界は広いですね」
うむ、世界は広いな。こんな魔法とか天使が居る世界見てたら、本当に「日本とか何も無いんじゃね?」と、つい疑問感を抱いてしまう。
「恐らくは遠くから来たのでしょう。宜しければ、此処に泊まられて行きますか?」
「え、良いの?」
「はい。シノさんが宜しいのであれば、ですが」
思ってもみなかった話だ。
確かに此処が本当に異世界なのだとしたら、寝床に困る。
まあ他にも色々困るのだが、今はその内の一つを安定させるべきか。
「じゃあ、お願いします」
断る理由も無い。私は小さく一礼すると、ルフは微笑んだ。
「では、シノさんの部屋は此処を出て、隣に居られる者に申して下さい。失礼ながら、私はまだ仕事の途中でしたので」
そう言って、ルフは左の木製机へと目を向けた。
目先では、たくさんの山となった書類が積み上げられていた。
「あぁ、悪かったね」
「いいえ。気分転換でもと思い、私がお招きしたので構いませんよ」
「そっか、ありがとう」
これ以上、仕事の邪魔をしては悪いと思い、私はお礼を言って立ち上がる。
ルフはそれを見て同じく立ち上がってきた。
「此処の見学も遠慮無くして行って下さいね」
「んっ、分かった。遠慮無く見させてもらうよ」
最後に「じゃ」とだけ言って、部屋を出る事とした。
左右に開く扉を開けると、目の前に青年っぽい男の天使が待ち構えていた。
たぶんこの天使がルフの言っていた案内人なのだろう。
「お話は聞こえておりました。部屋まで案内させて頂きます」
こいつ、盗み聞きしたな!?
などと一瞬思ってもしまうが、どうって事はない。
この男天使は入る前からこの扉の横に居ただけ。故に聞こえていて当然だろう。
そして丁度良い頃合いで横から移動し、扉の目の前で待っていたのではなかろうか。
この男天使、出来る。……けど盗み聞きに然程変わりはないか?
私は先手を行く男天使の背に着いて行くのであった。
案内されたのは、約にして六畳の部屋だ。
コンクリートで出来ており、窓が一つと脇側の真ん中にベッド。
他、木製のテーブルと椅子がセットで置かれていて、下にカーペットが敷かれている。
とてもシンプルな部屋だ。シンプル過ぎる。いや嫌いじゃないけど。
……ん? あそこにあるのは、鏡?
「では、私はこれで失礼します。お手洗いの方は、こちらの部屋を出て右側にありますので」
「あっ、ありがとう」
後ろの扉前に居た案内人の男天使に礼を言う。
男天使はそれを聞いて、「はい」とだけ答えて扉を閉めて行ってしまった。
「よしッ」
行こう、鏡の王国へ――ちゃう、鏡の方へ。
左奥の壁側、ベッドの前にある縦長い鏡。私はそこまで緊張しながら歩いて行った。それこそ仕事の面接に向かう並に。
ゆっくり、慎重に、緊張のあまり顔を俯けにして、前へと着実に進む自分の足を見る。
ゴクリと飲み込む生唾。辿り着いた、鏡の前。
目の前の鏡に、自分の足が映っている。
徐々にと顔を上げていき、前髪が視界に入る中、鏡に映し出された自分の顔を見た。
驚愕物だ。思わず顔を思いっ切り上げて見てしまった。
目を見開く自分の黄色い両瞳。容姿端麗、とても綺麗だ。
自分の顔であるのに見蕩れてしまう。トキメイてもしまう。
年齢は16、7辺りか。こんな女子が学校にでも行ってみろ、大半の男子は即落ちるのではなかろうか。
それが自分の顔。今の顔。
信じられないままに、両手で顔を触ってしまう。
やはり、自分の顔だろう。
「これが私……」
決めた、もう身も心も女になっちまおう。
試しに可愛らしくウィンクしてみる。
可愛い。それを見て顔が熱くなり、後ろを見て照れ隠ししてしまった。
やばい、これはヤバイ。とてつもないぞ!?
女体にハマってしまった自分は、しばらく表現の練習と言う名の可愛い女の顔(自分の顔)を見る事にした。
笑顔、怒った顔、泣きそうな顔、上目遣い……などと、様々な表情をしている時、窓の外から喧騒。
「うん?」
気になって窓から外を見てみると、あちこちで武具をした天使と天使が剣を振って戦っている。
喧嘩か何かかな? 物騒だ。
私は気になり、部屋を出て外へと出るのだった。
何処かのサッカーグラウンド並に広い場所で行われていたのは、どうやら訓練だったようだ。
岩畳の地に足を付け、それぞれペアで剣を、槍を、魔法をと駆使してのタイマンを予想した模擬戦だ。
「ほぉ……」
こうして剣を振るう様や、槍を突く場面を生で目にしたのは、生まれてこの方初めてだ。
アニメとかドラマ、それこそ映画館で見る戦闘映画とは全く違う迫力を感じる。
剣を凌ぐ天使。隙を狙って突いた槍を、足を捻り、体を曲げて回避する技。
実に見事で上手い回避技。ドラマ演技などで見せる、形だけのモノではない。
戦闘経験がある者こそが出来て見せる技術、業物だ。
それらとは別に、日本。いや、地球には無い魔法をあちこちで放っているのが見える。
「ホーリーランス」と唱えられた魔法は、見るからに光魔法で、体を貫通させれる大きさと長さと速さがある針を飛ばしていた。が、それを難なく剣で弾く天使。お見事。
「あれが魔法か。そう言えば試したかったんだ」
女神ルフから寝床を頂き、続いて自身の顔なんかも見ていたら、魔法なんて完全に忘れかけていた。
主に自分の可愛さのせいで。何と阿呆臭い。
それは置いておき、魔法だ。
何分、魔法何て仕組みも分かったもんじゃない。
例えるならばそうだな。パソコンの知識も無いのに、自作PCを組み立てろとか言われる位に訳が分からないのではなかろうか。
そう言えば、各パーツをマザーボードに刺すその箇所が分からなすぎて萎えた事を、ふと思い出す。
っと、また詰まらんモノを思い出してしまった。
さてさてぇ、魔法。魔法なぁ……
「ホーリーランス?」
取り敢えず先程見ていた魔法を、見よう真似に片手を広げて前に出し、誰も居ない方へと向けて言ってみる。
しかし出ない。何故に。
「想像力の問題かなぁ」
よくラノベなどで見るファイアーなら、炎を想像し、それを飛ばすイメージと共に「ファイアー」と唱え、それが形となって出るのを見る。
なら次は、光の針をイメージして飛ばすのを思い描けてやってみよう。
「ホーリーランス」
唱える。十分にイメージをして。
しかし出ない。何も起きない。
何故だ? 何故なんだ!?
何がおかしい、間違っては居ないはずだ。イメージをして唱える。……もしかしてそれ事態が間違っているのか?
確かに、それは十二分に有り得る話だ。
ラノベ風にして、はい魔法が出ましたー。何て甘ったるい展開は早々無いのだろう。
「はぁ……」
溜め息を吐き捨てる。
これは魔法の勉強でもする必要がありそうだな。
そう考えていた矢先、
「あ。シノさん」
「んみゅ」
ふと聞き覚えのある声が、隣から聞こえた。
私は自然に出た可愛らしい声と共に左へと顔を向けた。
「あぁ、ナロリィ」
小隊長のナロリィ・ドロワーズロゥ。基、私が胸を揉んだ女天使。もしくはドジっ娘天使。好きな方で覚えては良いのだろうが、此処は親切心を持ってナロリィと覚えておこう。
「どうかしましたか? こんな訓練場で」
「いや、剣とか槍とか、戦ってる所初めて見たから、つい見蕩れて」
「へえ……」
「そう言うナロリィは?」
「へっ、わ、私は……あはは。自主練でもしてろって、ミリアさんが」
罰が悪そうに笑うナロリィは、何処か元気な姿に見えた。
そこで私は、ナロリィが下げて両手で掴んでいるスコープの無い長銃に気付く。
狩人の銃だろうか? 木造と金属、一部宝石が付いているちょっと珍しい銃だ。
「長銃?」
「あ、はい。ベクトルガンロングと言う銃です」
ナロリィは下げていた「ベクトルガンロング」と言う長銃を上げて、私に見せてくる。
思えば、先程から模擬戦をしている天使達を見ては居たが、銃を使っている天使なぞ何処にも居なかった。
再度顔を中心辺りで剣や槍を振っている者達に向けた。
「珍しいでしょ。銃なんて使うのは私だけなんですよ」
「そうなの?」
「はい」
意外だ。剣などがあると言うのに、銃を持つ者がナロリィだけとは。
「銃は古代の武器に値する物で、大変貴重なんです」
私は「ふーん」と言いつつ、ナロリィの方へと顔を戻す。
よく見れば、ナロリィの武器には所々小さなキズが入っていた。
しかし外見は綺麗で手入れが程通っている。それなりに大切にしているのだろう。
けど、銃が古代武器か。
となるならば、この世界は地球よりも発展が良いのか? 未来都市なのか?
いやまあ、魔法が使える時点で色々おかしいけどもさぁ。
天使とか居る時点でもっとおかしいけどさぁ……うん。これはキリが無さそうなので、技術が発展していると言う事で、どうか一つ。
「形見の類に入るのかな?」
まず思い当たるのが、そんな貴重な古代武器を何故ナロリィが持っているのか、であった。
「はい。亡くなった父の物ですよ」
頷いて肯定を表すナロリィ。
「大切にしてるんだね」
「ええ、まあ。父が大事に使われていた物なので」
眼を開きながら口をニッコリとさせ、ギュッと先程より一層、力強く長銃のベクトルガンロングを握り閉めた。
「ところで、何ですが」
そこでナロリィは、最初と同じ位置まで銃を下ろし、話の話題を変える。
私は少し首を傾げて見せた。
「その多大な魔力、シノさんは人間さんなんでしょうか?」
「……またそれ?」
どうやら私は、生涯一生誰かに会う度「貴女は人間ですか」と聞かれにゃならんらしい。辛すぎる。
これは今度どうにか対策を練るべきか。
「あわわっすみません! 私同じ質問してましたか!?」
「あぁいや、最初は女神からで、二度目はナロリィだよ」
「あ、そうなんですか? うぅ、でもすみません」
「いや良いよ。どうやら私が悪いようだから」
半分涙目で何度も謝るナロリィに、私は辞めるように言う。
それに、揺れる大きな胸を見て、若干嫉妬するのは何故だろうか。不思議でたまらないモノだ。
「私は人間だよ。正真正銘ね」
しかし思う。本当に人間であってほしいと。
「凄いですね! 一体どんな魔法が使えるんですか?」
「うッ」
ナロリィがズイッと前に出て目を輝かせていた。
それはもう、子供が新しい玩具に興味津々にしている眼差し。どうやって遊べるのかを期待満々にしている眼差し。
辛い。とてもツライ。生きている事が辛いほどだ。
お願いだからそんな期待に満ちた眼をしないでほしい。
「いや、ごめん。私は魔法ってのが分からないの」
「…………ふぇ?」
数秒遅れて、ナロリィは眼を丸くして驚いていた。
「魔法が、分からない? その魔力で、ですか?」
「……うん」
素直に頷くと、更に固まってしまったナロリィ。
この世界ではそこまでおかしな事なのであろう。私には理解不能だが。
「いや、いやいやいや! 冗談は良してくださいよシノさん。
そんな大きな魔力を持っていて、魔法が分からないだなんて、一体どうやってそんなに持てるんですか!」
「と、言われてもね。本当の事だから」
「本当の、本当ですか?」
「本当の、本当だから」
にわかに信じがたい目で私を見つめ、「むぅ」と唸って眉を八の字にしていた。ちょっと可愛い。
「まあ、という訳で、ちょっと魔法おせぇて?」
「え、あーはい。良いですけども、少し待って下さいね」
親切にもそう言い残し、向かったのは中心の模擬戦をしている天使達の方。
その模擬戦を見渡しているであろう姿のミリアの背に向かっていた。恐らくは断りを入れるのだろう。
私はそれだけを確認し、適当に邪魔にならなさそうな隅の方へと進んでいったのだ。
「ですから、光の術式の場合は――」
っと、実にテンプレっぽい説明をしているのは、今をときめく魔法の先生ナロリィ・ドロワーズロゥである。
魔法の仕組みを聞く限りでは、私が最初にやろうとしたホーリーランスとほぼ代わりは無いらしい。
作りたい形をイメージし、それをどの様な大きさ、発射速度やその他諸々を頭の中で考え、それを術式に移し替えて発動する。
ファイアーを放つ事を前提とし、炎の形、速度や誘導性は要るかのイメージをする所で約にして五秒。術式に移し替えるのに二秒、と計七秒後にようやくファイアーを放てる。それが一貫の流れ。
ついでに言うと、想像の速さなどは人によるため、想像に使う時間は平均にして五秒。速ければ一秒未満で想像出来るのだが、そこはそこ。やはり慣れらしい。
もっと言うと、小難しい魔法ほど想像に使う時間は増え、同時にそれを術式に変えるのにも時間は掛かるとの事。
んで、私は最後の術式に移し替える一連をして居ないが故に、ホーリーランスを放てなかったのだろう。
だいぶ理解はした。
理解はしたのだが……術式に移し替えるってそもそもどうやるんだってばよ?
その事をナロリィに問い掛けると、「え、術式を知らないんですか!?」と驚愕はされたものの、ちゃんと丁寧に教えてくれる。
すまない、ナロリィ。全然分からないんだ、許してちょんまげ。
実に古臭いネタを脳内でぶち込む中、何も無い空(くう)に指をなぞり、術式らしい丸い円の中に文字や紋章みたいなモノを、光の線で描き残しながら説明するナロリィの言葉には一句も逃さず聞く。
しかし、その光の線ってどうやってんの? っと途中から疑問になっていた事を聞くと、魔力を手先から出してそれを固めているんだとか、何とか。ちょっと忘れた。
一句も逃さず聞いていてこれである。アホか。
「分かりましたか?」
「いやごめん。全然ワカンナイ」
「うぅ……」
長きにも渡る説明をしていた魔法の先生ナロリィは、今にも泣きそうな顔をしている。
いやまあ、ちゃんと一句逃さず全部聞いたさ。
けど何故だろう、さっぱり理解出来ない。
「やっぱり、光魔法に適正は無いようですね」
「うーむぅ」
そう、私が理解できないのは光魔法の説明だ。
実のところ「火」「水」「地」「風」の代表的な四大元素の術式は、見て何故か自然と、スッと頭に入るように分かった。
と言うよりは、何かしら最初から知っていたようで、「あぁそれか」見たいな感覚で覚えてしまった。
そんな私が、いくら術式を見ても訳が分からなかったのは、光魔法。
ナロリィ先生によれば、それは適正が無いのだろうと言われた。
つまりは、不慣れ。っと言った感じか。
自分の中で一番わかり易い例えなら、黒魔術師の人に「光魔法の回復使って」、と無茶振り言っている様な所。
まあこれは諦めるしかないわなぁ。でも、
「それでも、光以外ですが、中級魔法を術式無しで出来るのは凄いですよ!」
らしいのである。
そう、何を隠そう。私は何故か光以外の中級魔法を無術式で発動することが出来るのだ。デーン。
話しによれば、そもそも術式無しで魔法を使う事態が難しいらしく、出来ても初級魔法の一部くらいらしい。凄いぞ私の体。
――しかし。
しかし、だ。
「うん、詰まらないかなぁ」
「え?」
そう、詰まらない。詰まらないのである。
別に、ナロリィ先生の説明が退屈だったとか、そういうのではない。
ただ魔法を使って戦うだけと言う事に、実に詰まらないことだと思ってしまったのである。
「……そうだ、拳だ」
「へ?」
拳で殴ったほうが、速くね?
聞けば、魔法は身体能力の強化なども出来るらしい。
ならば、足腰を強化して、可能なら音速の速度で接近して右ストレートで殴ったほうが速くないかと言う結論に至る。
それにちょっと、魔法使うファイターとか憧れちゃう。
こう、「波○拳!」とかそう言うの。ネタ抜きでマジ憧れちゃう。
「拳を使った魔法とかある?」
「うぇ!? そ、そんなの見たことないですよ!」
「そなんだ」
じゃあ作るしかないようだ。オリジナルを、自分流を。
驚くナロリィ先生を余所に、私は一人頷いて決心したのである。
「うん、ありがとうナロリィ先生。ちょっと勉強してくるよ」
頭を下げ、私は早速独学するべく鍔を返し、まずは頂いた寝床へと戻る事にした。
「ふぇ? あーはい。……って、先生は要らないですよッ!?」
後ろの方でワーキャーとナロリィが言っていたが、それに見向きもせずに歩いて行ったのである。
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