2-4
泉が指し示した先には、派手なメイクの女性の顔が印刷された箱のようなものがいくつも並んでいた。
「何あれ」
「えっ、プリ知らないの!?」
「プリ?」
「プリクラ!写真撮って遊べんの」
「写真ならケータイでも撮れるんだろう?」
「そうだけどそうじゃないの!とにかく絶対楽しいからやろ!」
泉に連れられてプリクラと呼ばれる箱の中へと入る。中は白いライトで過剰なほど照らされていて、何やらゲーム画面のようなものが設置された壁と一面が緑色の壁とが相対する空間になっていた。
コインを入れると、なにやら説明する音声が流れ始めた。もちろん俺は何も分からないので全て泉に任せる。泉は慣れた手つきで画面をタッチしていく。
「ケンタロー、始まるよ!」
「俺は何をすればいいんだ?」
「このカメラに向かってポーズ撮るだけ。とりあえずプリ機の指示に従ってればいいから」
その言葉通りに音声が流れだす。
『まずは手始めにピースサイン!3・2・1!』
カシャ!
指示された通りピースサインをした。なるほど、こういう感じでやっていくのか。先程まで泉が操作していた画面にはポーズ例が映っていて分かりやすかった。
その後もうさぎやライオンのポーズ、手でハートを作るポーズなんかの指示に従っていく。
『次はお互いのほっぺを触ってね!』
音声と共に映る画面では、二人の女の子が親指と人差し指で相手の両頬を軽くつまんでいた。
女の子同士ならいいかもしれないが、俺が泉の柔らかそうな頬に触れてもいいものかと躊躇っていると、伸びてきた指が俺の両頬をつまむ。
「ほらっ」
そうして泉は自分の顔を差し出してくる。その表情はからかうようにニヤついていた。泉が先に動いてくれたおかげで幾分緊張が抜けた俺はその両頬をつまんだ。ムニ、という感触は想像よりも柔らかく、指先から泉の体温が感じられた。
そうして写真が撮られると再び音声の指示が入る。
『最後は自由にポーズをしてみてね!』
自由にと言われてもな、と戸惑っていると泉が肩を組んできた。
「最後だしめっちゃ楽しそうな感じで撮ろーよ!」
そう言うと空いた方の手をピースサインにして自らの目の前に持っていき、屈託のない笑顔をカメラに向けていた。
俺はやっぱり泉の真似をしてポーズをとる。しかし先程までとちょっと違うのは笑顔を意識したことだった。
『撮影終了!おつかれさま~』
どうやら全ての撮影が終わったらしい。すると、泉はこれからが本番というように箱の外へと出ていく。
「じゃあ次落書きね」
泉についていくと箱の外壁に何やらまた画面が設置されていた。俺が未知のものに触れていることへの配慮か泉が説明してくれる。
「今撮った写真にこのペンで落書きできるんだー。ほらこんな風に」
泉はライオンのポーズの写真に
その後も泉は写真にいろいろな手を加えていく。その姿はまるで熟練の職人のようだった。そして泉は最後に撮った写真にも落書きしようとする。
「………。うん、これはこれでいっか」
しかし、しばらく写真を見つめると特に手を加えることなく作業を終えた。楽しそうに肩を組んで笑う泉と、見よう見まねで肩を組んでぎこちなく笑う俺の写真。なんだかその写真に映る二人はまるで友達みたいだった。
「ケンタロー、この写真携帯に送れるけどどうする?」
「いや、俺ケータイ持ってないぞ」
「え?でもさっき写真なら携帯でも撮れるとか言ってなかったっけ」
「あれは聞いただけだ。ていうか俺みたいなやつがケータイなんて持ってても仕方ないだろ」
「そういえばケンタロー、ボッチだったね……」
泉は哀れむような、慈しむような視線を向けてきた。おいやめてくれ。
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