2-3

 ドンドン、カッカッ。

 ドドドドドドドドドドドッ、カカカカカカカカカカッ!!


 太鼓の鉄人はゲームセンターでは定番とされるリズムゲームだ。遊び方はシンプルで、音楽に合わせて、画面を右から左に流れる譜面通りに太鼓を叩くというものである。


 泉をゲームセンターに誘ったはいいが、なにせ小学生の時以来こんなところに来ることもなかった俺は、並んでいるゲームでどう遊べばいいのか勝手が分からなかった。

 そんな時、この太鼓の鉄人を見つけた。かろうじてこれだけは昔やっていたことと、そのシンプルなゲーム性で俺にもできそうだということで泉と一緒にやることになった。


 カッカッ、ドコドン。


 俺のプレイ難度はかんたん。初心者向けのモードだ。とはいえ数年ぶりのプレイだったこともあり、ぎこちない動きでミスをしながら必死に太鼓を叩いていた。


 そんな俺の隣からはすさまじい音が鳴り響いている。


 ドドドドドドカカッ、カカカカカカカッドドドドドドカカカカカッ!!


 横目に見ると、泉が目にも止まらぬ動きで太鼓を叩いている。しかもコンボを示す数字は最初から途切れていない。つまり泉は闇雲にやっているわけではなく、画面に流れる膨大な量の譜面をしっかり認識し、その通りに太鼓を叩いているらしかった。こいつ、化け物か。


 演奏が終わり、プレイ結果を示す画面が表示される。なんと泉はオールパーフェクトだった。


「久しぶりにやったけど、ちょっと下手になったかなー」

「いやこれ以上の結果はないだろ…」


 オールパーフェクトなんだから。呆然とする俺をよそに泉はなおも不満気だ。


「アレだよアレ、芸術点的にびみょーだった」

「太鼓の鉄人で芸術点なんて初めて聞いたぞ」

「んー、もう一回!」


 まだやり足りないという様子の泉はもう一プレイやる用だ。俺は今のプレイで少し疲れてしまったのと、泉のプレイの様子をちゃんと見たいという気持ちがあったので観戦に回ることにした。


 そしてプレイする泉の姿を観察する。相変わらずどうなっているのか分からないくらいのスピードで太鼓を叩いている。


 どれだけやりこんだらこうなるんだと感嘆していると、何人かの人が足を止めて泉のプレイを見ていることに気づいた。まあ、ただでさえ派手な泉がその長い金髪を揺らして、意味不明な速さで太鼓を叩いているんだ、ちょっとした見世物だよな。

 そう考えると先程泉が言っていた芸術点という言葉が一理あるように思えてくる。おそらく泉の言うそれは俺には理解できない技術的な何かのことなのだろう。


 それは置いておくとして、俺は泉のプレイを見てなんかすごいなと感じていたのだった。足を止めて見ている連中も多かれ少なかれ同じような気持ちを抱いているはずだ。

 それはもしかしたらそんなに大層なものではないかもしれない。しかし確実に、泉のプレイには人を惹きつける何かがあるということを示していた。そのことを泉自身は意識してないだろうが、俺は何か羨むような気持ちでその様子を眺めていた。


 そして泉のプレイが終わる。結果画面には相変わらずのオールパーフェクト。今度は満足したのか、駆け寄ってくる泉に声を掛ける。


「まさに太鼓の鉄人って感じだったな」

「もー、それほどでもあるよ~?」

「あれだけ上手いんだし、ここにはよく来るのか?」


 そう聞くと、得意気になっていた泉は、何か躊躇うような、言い淀むような苦笑を見せた。


「んー、まあ昔ちょっと通ってた時期があってね。最近は滅多に来ないかなぁ」

「そうか」


 その態度は少し引っかかるものだったが、それも気を取り戻したような泉の元気な声にかき消される。


「じゃあ、次あれやろーよ!」


 そう言って泉が指し示した先には、派手なメイクの女性の顔が印刷された、箱のようなものがいくつも並んでいた。

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