2-2

 泉の要望で、たった今買ったばかりの服一式に着替え、制服を人気のない路地裏のコインロッカーに預けた。改めて俺の姿をしげしげと見た泉は満足そうな表情をした後、俺のそばにすり寄り、腕を絡めてくる。


「ずいぶんカッコよくなったんじゃない?存分に感謝してもいーよ」

「ち、近い」


 俺もコミュニケーションについてとやかく言える立場ではないが、相変わらず泉の距離の取り方は異常だ。腕に当てられた柔らかい感触を意識してしまうとどうしても緊張してしまう。


「あれ、照れてる?」


見ると、上目遣いの泉がニヤニヤとした表情を浮かべている。なんか悔しいな。


「照れてない!……けど、なんかありがとな」


 からかわれていることは置いとくとして、俺のためを思ってやってくれた泉の厚意には礼を言っておく。

 すると、ニヤニヤしていた泉はきょとんとした後、目を逸らす。その顔はほんのりと赤い。


「ま、まあ、あたしがしたくてやったことだし。…でも、じゃあご褒美ちょうだい」

「ご褒美?」


 一体何を要求されるのか。正直、服を買ったことで財布の中身はかなり心もとない感じになっているんだが…。そんな心配をよそに、泉は自分の要求を簡潔に述べた。


「撫でて」

「…ナデテ?」


 Nadete。それはつまり日本語に訳すと撫でて、ということだろうか。どういうわけで泉はそんな要求を?


 うろたえながら泉の方に目を向けると、顔を伏せてその頭を無防備に晒していた。これは、やれということなのか。


 その空気に耐え切れなくなってきた俺は、これ以上何かを聞き返すのもためらわれたので、緊張した手つきでその金色の髪に触れた。


「んっ」


 反応する泉の声が色っぽい。俺はその頭を撫でながら自分の体温が高くなっていくのを感じた。リラックスしてきたのか力の抜けた泉は先程よりもこちら側に身を預けてきた。


 泉の体に触れる面積が増える。その柔らかさは抗いがたい心地よさを伴っていた。路地は日陰になっているものの、やはり暑い。この状況で密着するのは愚の骨頂のようにも思えたが、不思議とあまり嫌ではなかった。


 そんな時間がしばらく続き、やがて泉の方から体を離した。


「ありがと…」


 礼を言う泉はやはり顔を伏せており、かろうじて見える耳は赤い。なんだこの空気は…。


 しおらしくなっている泉に戸惑った俺は辺りを見回した。するとゲームセンターの存在が目に入る。俺は自分らしくもない空元気で泉に提案する。


「あっ、ゲームセンターだ!つ、次あそこ行かないか?」


 泉は顔を上げると、ふふっと笑い、俺の提案に賛同した。


「うん、行こっか!」


 どうやら少しは元の調子に戻ったらしい。俺は安堵するとゲームセンターに向けて歩を進めた。

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