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改めて言うと、俺の生活は絵を中心に回っている。それじゃあどうして高校なんかに通っているのかといえば、せめて高校は出ておいてほしいという祖父母の頼みがあったからだ。育ててもらった恩がある以上、義理は果たさなければいけない。
そんなわけで特に勉強に対するモチベーションのない俺にとって、学校生活とは眠ることだった。
朝、学校に登校し、自分のクラスである二年B組のドアをくぐる。窓際最後尾の席に座ると、スクールバッグを椅子の下に置き、机に突っ伏して眠る。以後、昼食を挟んで放課後まで眠り続けるのが俺の学校生活だ。
なぜこんなに眠ることに意欲的なのか。その原因は毎朝の新聞配達のバイトにある。朝の四時に起きて一仕事した後の学校は、もうはちゃめちゃに眠いのだ。そうしてその意の赴くままに寝るというわけだ。ちなみにバイトは画材や絵の資料を揃えるためにやっている。絵を描くのにも意外と金がかかる。
つまり、バイトが終わり学校に着いた俺は、今日も今日とて元気に机に突っ伏さんとしていた。
「おっす、ケンタロー」
「いたっ」
頭を軽くはたかれる。聞き覚えのある声の方に視線を向けると、泉が立っていた。
「え、何」
「何って!友達なんだから挨拶くらいするでしょー」
「あぁ、友達だから挨拶したのか。…ん?友達って、誰と誰が?」
「あたしと、ケンタローが」
当たり前でしょと言わんばかりに泉は答えた。ちょっと待ってくれ。
「いや、俺はお前と友達になった覚えなんてないぞ」
「はぁ?だって昨日話したじゃん」
「お前は会話した人間全員と友達になるつもりか?」
「別にそういうわけじゃないけど…。ま、アレだね。昨日の他人は今日の友ってやつ!」
泉がニカーッと笑顔を見せる。なんか微妙に間違ってる気がするが…。だが確かにその言葉を地で行くスピード感がこいつにはある。早すぎてついていけない。
「っていうか、ホラ!」
「ん?」
クイクイと手招きする泉は何かを要求しているように見える。
「挨拶!あたしがしたんだからケンタローも返してよー」
挨拶。思えば最後に友達に挨拶したのはいつのことだったか。人間、慣れないことをしようとすると緊張してしまうものだが、この時の俺も例外ではなく、少しうろたえてしまった。
「んー?言っとくけど、挨拶返してくれるまで粘るからね!」
「分かったよ…」
そして意を決した俺は、泉に挨拶した。
「お、おはよう…?」
「うん、おはよー!」
泉は満足そうに笑うと、今度はその顔を耳元に近づけてきて囁いた。
「これであたしたち、ホントに友達だね?」
なんだか少し色っぽい声音にドキリとしてしまった。泉は顔を離すと、からかうようにクスリと笑って、あいつの友達であろう女子の集団の方へ向かった。
なんだったんだ一体。俺はため息をついて、心を落ち着かせる。すると、忘れていた眠気が再び襲い掛かってきた。今度こそ寝させてもらおう。そう考えて、俺は机に突っ伏すと目を閉じた。
意識が完全に落ちるまでの間、先程の泉の囁きが、新鮮な色を持って頭の中に響いていた。
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