第13話 155円の有効な使い途とは

 翌日、俺はいつも通りにキリギリス引越しセンターに出勤した。ハッカ味の禁煙パイポをくわえたスズキと軽く挨拶をし、仕事に就く。いつも通りの日常だ。非合法的要素は存在しない。そして、何より今日は給料日だ。洗濯したジーパンのポケットから出てきた100円玉と50円玉と5円玉1枚ずつで昼飯をやり過ごせば、仕事が引けてから閉店間際のスーパーでお買い得な肉・魚・野菜を買い込めるわけだ。ふっふっふ、今日は久々にジャガイモ満載カレーが作れるぜ。


 しかし、155円でどうやって昼の空腹を満たすことができるだろうか。俺は年季の入った桐のたんすを担ぎながら、真剣に悩んだ。とりあえず、血糖値上昇のために砂糖一袋か。いや、そんなに砂糖ばかり食えねえな。安い板チョコなら2枚買えるな。カロリーも補える。しかし、腹は膨れねぇ。1丁30円の豆腐を5丁か?いい案だが、醤油がねぇな。炭水化物も欲しいしな。


 結論の出ないまま、俺は昼休みを迎えた。キリギリス引越しセンターの近所にはホライズンという名のコンビニがあるが、そこでは俺の155円は活用できまい。俺は少し足を延ばして、りんさんの店のそばにある安売りスーパー「ニュー・クラウン」に行くことにした。


「おう、どこで昼飯にするんだ?」


ぶらり、とスズキが喫煙所から出てきた。スズキは禁煙パイポ愛用者であるが、何故か喫煙所でパイポを吸うのを好む。隣で本物のタバコをふかされようと、奴はパイポだ。禁煙中で、本当は吸いたいのを我慢しているのかと思ったら、実はスズキに喫煙経験は無いらしい。どうにも解せない奴だ。


「俺、今155円しか持ち金がねぇんだよ。どっか行って食えるわけねぇだろ。」

「そういや、昨日既に素寒貧だったな。」


ほっとけ、と俺は心の中で毒づいた。この台詞を今口に出すわけには行かない。本当にほっとかれていたら、俺は昨日の夜で既に果てていただろう。ひとまず、昨日のおごりは感謝している。


「ニュー・クラウンに行くんだよ。」

「ああ…」


ニュー・クラウンと聞くと、スズキはよく、ああ、という。ただ、ああ、の後の言葉をスズキは滅多に言わない。


「そっちにゃ林さんの店があるな。俺も行って少し様子を見てくるか。」


スズキはぶらっと方向転換し、ニュー・クラウン方面へと足を向けた。確かに、林さんの店がどうなっているか、少し気になる。俺も昼飯を購入する前に林さんの店を覗くことにした。もっとも、覗くだけで飲食はできないのが悲しいところだが。

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