第14話 再会の時
キリギリス引越しセンターから
窓から中を覗いてみると、結構若いアルバイトのおねーさんがこまこまと動き回って、水やら料理やらを運んでいる様子が見えた。換気扇からは香ばしいごま油の香りが噴出してきている。普段どおり、昼時で一寸忙しいけれど、いたって平和な中華料理店の趣がうかがえる。客層もネクタイを緩めたビジネスマンや、タクシーの運ちゃんっぽい人が殆どで、小指の短い怖いおじさんが居座って迷惑行為にいそしんでいる様子も無い。やれやれ、心配が杞憂に終わって何よりだ。
「何事もなさそうで良かったな。」
俺はそう言い、自分の昼飯のため安売りスーパー「ニュー・クラウン」へと向かおうとした。
と、その時、ニュー・クラウンへ向かう道の角辺りに、どうにも近寄りたくない雰囲気のオーラを感じた。自慢ではないが、空腹時の俺は野生動物並みの知覚能力を備えることができる。その腹減り俺がある一角に危険を感じるということは、そこに俺の昼食を妨げるような邪悪なものが潜んでいるということに他ならない。
俺は何気ない風を装って、ニュー・クラウンとは反対方向に歩き始めた。遠回りしていくしかあるまい。
しかし、俺の気も知らないスズキは、無防備にも俺に呼びかけた。
「おい、そっちはニュー・クラウンじゃないだろ。」
「いいんだよ、別に。おら、さっさと行こうぜ。」
スズキの腕を取り、ぐいぐい引っ張るが、スズキは訝しむだけでなかなか動かない。
そうこうしているうちに、俺のセンサーは危険が迫っている事を察知した。そして、振り向くとそこには、どこかで見たような、見なかったことにしたような、黒尽くめのコワモテーズがゆらゆらと湧き出てきていた。
…何となく、生ゴミ臭いのは俺の気のせいか。
コワモテーズは、相変わらず中国語で何やら俺達に話しかけてきた。ただし、この話しかけは、RPGでよくある選択肢「はなす」のような穏便さからはかけ離れているように感じられる。そう、俺なりに翻訳するならば、「昨日はよくもやってくれたな」「いてもうたるで」「ガタガタ言わせたろか」ってなところか。
いやいや、そんな翻訳をしている場合ではなかった。コワモテーズはゆっくりと、俺達を取り囲むように広がってきている。スズキを見ると、相変わらず間の抜けたおっさん顔だ。状況を分かっているのか?
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