第8話 ゴミの処分方法を考える

 スズキはフンと鼻を鳴らすと、心持ち形の歪んだお盆を手近な円卓の上に置いた。人間の頭蓋骨というものは、金属のお盆を歪めることができるらしい。俺はこの時初めて知った。


「面倒な連中だな。目を覚まさんうちにゴミ袋に詰めて川に流すか。」


スズキは冗談とも思えない口調で言いながら、意識を取り戻しかけていた悪漢に踵落としを喰らわせた。容赦ない一撃に、悪漢は再び無意識の底に沈んでいく。おそらく、ゴミ袋計画はスズキの本心だ。奴ならやる。


 しかし、りんさんはスズキほど過激ではないらしい。流すのは良くないと呟きつつ、床に転がっている4人のコワモテーズを順に眺めた。


「このままじゃ邪魔だろ。流しちまえよ、林さん。いや、むしろ海にでも沈めとくか。」


スズキの真面目な提案の後ろでは、うめき声を上げてぴくぴく動き出した悪漢達に踵落としを次々と浴びせる音がBGMとして響いている。人の良さそうな顔の林さんでも、スズキの荒業を止めようとはしない。ただ、困った顔を横に振るだけだ。そうだぜ、林さん。幾らやばそうなコワモテーズだからって、川に流すだの海に沈めるだのしたらこっちが犯罪者だ。スズキの言葉に耳を貸す必要は無い。


「幾らなんでもそんなひどいことは出来ないよ。」

「そうか。まぁ、こんな奴ら流したら、川が汚れて環境汚染か。」


スズキは論点のずれたことを言って、何とか納得したようだった。


 だが、スズキの言う通り、こいつらをこのまま放って置く訳にもいかない。このままでは俺のチャーハンを手厚く葬ることもできないし、何より俺の晩飯が再開される見通しが立たない。由々しき事態だ。


 俺は大きな音を立てて手を打った。


「仕方ないから、その辺に放り出しておこうぜ。店からちょっと離れた所にでもさ。」


「そうだな。確か、角にゴミ収集所があったな。しかも、明日は可燃ごみの日だ。丁度良い。」


丁度良い…何がだ。もしや、誤って収集されることを期待しているのか、スズキよ。だが、まぁ、ゴミにまみれていれば酔っ払いか何かと勘違いされるかもしれないな。それは丁度良い。


「ヤマダ、二台ずつ運ぶぞ。目を覚ますと厄介だから、持ち上げる前に一撃浴びせとけ。」

「うーす」


スズキの言うことは尤もだ。確かに、運ぶ途中で目覚められてはたまらん。俺はげすげすと悪漢の脳天に肘鉄を食らわせ、完全に伸びきったことを確認してからまとめて二人持ち上げた。やや重いが、何、グランドピアノに比べれば人間なんぞ軽いものだ。


「すまないね。私は店を片付けておくよ。」


 林さんは辺りに散らばった皿の破片や俺のチャーハンの亡骸を見渡し、颯爽と片付け始めた。ちょっと小太りな体からは想像も付かない機敏さだ。日々厨房を歩き回り、中華鍋を振るって、料理を運ぶことで鍛えられているのだろう。

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