第7話 チャーハンの弔い合戦

 俺は、無意識のうちに自分が立ち上がっていることに気付いた。そして、俺の拳は、俺の意志が脳から伝達されるより先に動き、俺のチャーハンを足蹴にしたクソ男の後頭部を狙い澄ましてぶん殴っていた。不意を付かれたクソ男は思いっきり前につんのめり、そのまま俺のチャーハンが散らばった床に倒れ伏した。


 突然の闖入者にコワモテーズは驚いた様子だ。足元の俺のチャーハンをぐちゃぐちゃに踏み潰しながら何事か発言している。


「何言ってるんだかわかんねぇんだよ!」


俺はただ、チャーハンを失った怒りと悲しみのあまり、手当たり次第コワモテーズに殴りかかった。まずは細長い男の鳩尾に一発。よろめいたところに更なる一発。細長い男は倒れ伏し、潰れた俺のチャーハンと熱いキスを交わした。


「俺のチャーハンを返せ!」


りんさんの左側にいたやや色の黒い男の横っ面に猛烈フックを加える。伊達に毎日重いタンスを担いじゃいない。俺の火事場のクソ力+日々の鍛錬で色黒男は吹っ飛び、カウンターの椅子に衝突した。さぞかし痛かろうが、死んだ俺のチャーハンと、俺の心の痛みはもっと深いのだ。


 俺は最後に残ったもう一人に制裁を加えるべく、後ろを振り返った。最後の一人はすっかり動揺し、意味不明な中国語を呟くばかりである。俺はぐっと足を一歩踏み出そうとした。


 ところが、そこには俺のチャーハンの憐れな姿が散らばっている。俺にはチャーハンを土足で踏みしだくなど、たとえ頭に血が上っている今の状態でもできない相談だ。俺はチャーハンを避けるためにバランスを崩し、あわやのところで割れた皿の上に手を付くところだった。何とか辛くも手を切るという事態は避けられたものの、俺はすっかり体勢を崩してしまった。顔を上げた頃には、この隙を狙った強面男の拳を構える姿が目に映った。


 だが、俺が目にしたのはそれだけではなかった。強面男の背後にはスズキが回りこんでおり、地に落ちたはずのお盆を男の脳天に正に振り落とそうとするところだったのだ。強面男の拳が俺に襲い掛かるより先に、お盆はやや間の抜けた音を立てて男の頭蓋骨と共鳴した。それも、四度、五度と。スズキよ、幾らなんでもちょっとやりすぎではないだろうか。俺は心の隅でスズキに語り掛けつつ、倒れ行く悪漢を眺めた。

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