第21話 蔓延るもの


 なんとも言えない沈黙を抱えたまま、エメロードは熟考する。

 今後、どう動くのか・・・どうやって報告をするのかを。


「エメ。今は兎に角、決定的な証拠が必要になってくる。幸いアルコバレーノ様に我々が言って耳を貸してくれるのがありがたい。ここで無理・・・となったら時が面倒だったからな。エメは証拠集めに専念して欲しい。後のことは僕と父上で何とかするから」


「はい。そうですわね」


 ブビリオの言葉に、イリアと共に頷く。


「それにしても・・・・違うことで呼ばれたのに、面倒な仕事まで増えてエメのが大変だ。無理はしないでくれよ?エメが倒れた・・・なんてなったら、父上が何をするか分からない」


 その言葉に、ふふふっとエメロードは笑うだけだ。


「イリアも大変だと思うけど、エメロードをよろしくね。また何かあれば連絡するから」


「勿論ですよブビリオ様」


 そうして和やかとは言い難いお茶会は幕を閉じた。



 *  *  *



 話は王太子宮に到着した時まで遡る。

 エメロードとイリアは、違和感を感じていた。

 それは前にもあった『人が少なすぎる』ことだ。

 それがきっかけになった。


 どう考えて、あの人数で王太子宮を任せれるとは思わなかったのだ。

 もし、その人数で維持をしているのならば、使用人達は寝る暇もないことになる・・・。

 女官長のグルナ曰く、現状の王太子を隠すには、信頼がおける者だけにして、行儀見習いで来ていた者達は違う場所に移した・・・・と言っていた。


 では、どれくらい移したのか?

 その数によってどれくらいの人が足りていないのか?

 それがエメロードには気になったのだ。


 それを調べた結果、王太子宮には殆ど行儀見習いが入っていなかったのだ。

 いい意味言えば、少数精鋭で回していた・・・と取れる。


 実際には、行儀見習いとして来る高位貴族の令嬢が少なく、貴族としては認められているが、金銭面的に苦しく王宮で職を得ている者が他の宮より多いのだ。

 だから『行儀見習いは外した』と言ったグルナの話が通った。


 では何故、他の宮よりそう言った者が多いのか?

 それは『王太子に不埒な真似をする者が多いから』と言う言葉が来る。


 だが考えて欲しい。

 実際に王太子に夜這いなんて掛ける者は、そうそうは居ないだろう。

 王太子の私室前には常に護衛の騎士が居るし、彼は意外にも自分のことはなるべく自分でするタイプなのだ。


 だから、必要以上にメイドも侍女も要らない。

 行儀見習いで来ているメイドでも、王太子の目に留まり、おこぼれがあれば・・・的な感じになるのだ。

 そうなれば、必然的に行儀見習いが多くても良いだろう。

 それが、少ない。

 変な話だ。


 次に不思議に思った事は、王太子宮の調度品だ。

 エメロード自身が鑑定が出来る訳では無いが、数ある書物が好きな兄の影響を受けてエメロードも色々な本を読んでいる。

 その中には、骨董品等の本も含まれていた。

 そしてここは王城の王太子宮。

 意図せずとも数ある名の骨董品が、廊下や居室に飾られていても何らおかしくない。


 しかしそれらの数が少ないように思えたのだ。

 どことなく殺風景な居室。


 廊下には絵画や高名な置物・・・よりも豪華な花などが置かれている。

 もしかして、王太子はそう言った物よりも、花を好むのだろうか?

 とも考えた。


 そこでエメロードは、今度は王太子スフェールの好み、これまでの行動を把握することにした。

 幸いこちらにはカイユーと言う手駒も居たので、それはすんなりと分かった。


 普段スフェールは(普段と言ってもイヤイヤ期&反抗期になる前だが)、多忙を極める為王太子宮よりも王城の執務室に居る時間のが長いらしい。

 なので王太子宮に居る時間は必然と短くなる。

 しかも、王太子宮で夕食を取る事も少なく、基本的には寝に帰るようなものだったそうだ。


 また、休日に関しても軍の鍛錬に交じったり、部屋や図書室に居たりすることが多かったそうだ。

 つまり、スフェールが王太子宮で過ごす場所が、限られた区間だけだったのだ。


 そこまで分かったエメロードは、今度は散歩と言う名の、居室探索へと出る事にした。

 分かった事は、スフェールが行動する場所から離れれば離れる程、調度品の数が少なくなり、その質も落ちている・・・と言った事だ。


 ここまで分かったエメロードは次に、スフェールがどのように王太子宮の管理をしているか・・・と言う疑問に至る。

 そこで再びカイユーを使い、どれ位を誰に采配を任せているのかを調べた。

 これは直ぐに分かる。

 女官長グルナだ。


 スフェールはなんと、グルナに予算を組ませ経費の申請等をさせていた。

 そしてそれらの書類にスフェールはサインをするだけだったのだ。

 つまり現在、スフェールは王太子宮にどれ位の予算が組まれていて、どれ位の経費が落ちているのかを知らないのだ・・・。


 ここまできて、今度はこの現状を財務省が把握しているのか?となる。

 これも調べると、スフェールのサインがされている物は、全てにおいてすんなり書類が通っているのだ。

 勿論これは王太子宮など、スフェールが使用している物に限りだが・・・。


 それにしても・・・ガバガバ過ぎないか?!とエメロードが思ったのは仕方がない。

 それと共に、ここまで臣下に信用されているスフェールを見直してもいる。

 だが、自分の身の回りのことについて、関心を持たないのは非常にまずい。


 次にエメロードがしたことは、どれ位の予算に対してどれ程の経費が掛かっているのか?だ。

 一番に掛かる・・・と言えば『人件費』だ。

 この場合は、行儀見習いの給金や下級貴族でのメイド・侍女の給金、下働きの平均的な給金などを調べたのち、王太子宮の人件費を確認すると・・・・明らかな水増し請求がされていた。


 換算すると、行儀見習い一人に対しての給金が二倍にもなっている。

 他にも下級貴族の給金が三倍、下働きは一.五倍。


 他には疑問に思った調度品も、管理リストから少しづつ消えていることが分かった。

 このお金や調度品が何処へと流れているのかは分からないが、全てを管理しているグルナが関与している事は間違いなかった。


 ただ、この件がグルナ一人とは考えられない・・・と言うのも問題なのだが。

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