第20話 買い物に行こう!
スフェールを揶揄い、上げて落とす作戦を決行して、早二週間が経った。
隣国の使節団が来るからと設けられた期限も残すところ、一ヶ月半と言ったところだ。
じつはアルコバレーノと会った日から数日後に、使節団の来日予定が決まったのだ。
期限は約二か月半。
話していた予定の、真ん中…と言ったところだ。
エメロードの『上げては落とす、そして鬱憤を晴らしてあげよう作戦』が開始されて直ぐのことだ。
だが、ここで別の問題が浮上してしまった…。
それがここ最近エメロードが調査していたことだった。
あれから無事全ての調査が終わった。
調査的に良いか悪いかで言えば、悪い。
それもかなり…。
だが、これも自分から首を突っ込んだ結果だ。
正義感も強いエメロードは、見て見ぬふりは出来なかった。
仕方がないのだ。
さて、そんなエメロードなのだが、今日は城下へと来ていた。
勿論このお出掛けは、アルコバレーノの許可を取っている。
本人的には『ちょっと裕福なお嬢様』を目指しているので、周りからも見てもそうとられていると思っている。
実際は『下級貴族のお嬢様がお忍びで遊びに来ている』と見られているが…。
まぁ、この二人…エメロードとイリアに至っては、犯罪に巻き込まれることはよっぽどの事が無い限りは、大丈夫だろう。
なにせ二人共、武術…と言った類のものがそんじょ其処らの者達よりも、強いのだから。
腕っぷしが強いと言うことは、犯罪など危ないことへの危険予知が働くのである。
カランッコロン。
ドアのベルが鳴り入店の合図を送る。
店の中には、紅茶の茶葉が幾つも並び、それに伴うジャムやスコーン等のお菓子が並べてある。
そう紅茶専門店だ。
珍しい茶葉も取り扱っていることが多いので、ここへの買い物はエメロードの楽しみになっている。
この店をたまたま見つけたエメロードは、歓喜の踊りを店内で踊りそうになった。
たった数日前にだが…。
さてこの店の奥には、喫茶スペースもあるようで、二人は奥へと進んで行く。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「いいえ、連れが先に来ていると思うのですが…」
「お連れ様ですか?なら、奥のお席に居る方だと思いますよ」
そう言って奥を示す店員。
二人はお礼を言って、奥へと足を進めた。
そこには明るい茶色の髪をもった、男性が一人エメロード達に背を向けて座っていた。
そう、彼が目的の人物だ。
彼もエメロード達に気が付いたのか、こちらに顔を向けた。
「やぁ、二人共。久しぶりだね」
「お兄様。お元気そうで良かったです」
エメロードもにっこりと笑って答える。
そう、待ち合わせの人物は、ブビリオ・クリスタリザシオン。
エメロードの兄である。
ブビリオもエメロードと同じ様にちょっと裕福な商家の息子…と言ったいでたちである。
「二人共掛けなよ」
その言葉に、席に付くと見計らった様に、店員が注文を取りに来た。
「では、おすすめの紅茶と季節のケーキのセットを二つ下さい」
「かしこまりました」
注文を取ると去っていく店員。
因みにブビリオは既に、紅茶を飲んでいた。
「お待たせしてしまいましたか?」
「いや、そんなに待っていないよ。大丈夫」
エメロードを安心させる様にブビリオも笑顔で、返答する。
「それで、早速本題なのですが…どうでしたか?」
「うん。そうだね……結論から言えば、エメロードの考えている事は『当たり』だよ。それにしても困ったことになったね」
まったり言うブビリオだが、言葉とは裏腹に笑顔だ。
「それで…目星は」
「お待たせしました。季節のケーキとおすすめの紅茶セットです」
タイミング悪く、店員が食事を運んで来てしまった。
だが、聞かれてもまずいことだったので、良かったのかもしれない。
運ばれて来た、季節のケーキには色とりどりの瑞々しい果物が乗ったタルトだった。
おすすめの紅茶も芳醇な香りが辺りを漂っている。
これぞ至福の時。
「うっとりしているエメロードも可愛いけど、本題に入っても大丈夫かい?」
くすくすと笑われて、エメロードは恥ずかしそうにしたが、次の言葉で雰囲気がガラリと変わった。
「はい、大丈夫ですわ」
「うん。さっきの話なんだけど…目星って言う目星はまだ付いていない。と言っても片方は…ってことだけど」
「片方?」
「そう、二方向に分かれてたんだ…。比較的、安価な物は裏市場に流れてた。でも、高価な絵や壺と言った物は足取りが掴めないんだ…。まぁ絵や壺なんてそうそう買い替えれないから、たいした点数にはならないと思うけど、皿や銀食器、それから細々とした物なんかは売りに出されているみたいだよ」
「やっぱりそうでしたか…私の方でも調べたんですが、ここ最近ではそう言った細々とした物も無くなっている感じはなかったでね…」
「ん~それは僕も父上も確認したよ。もしかしたら……そのものへ手を出し始めたのかも…」
「予算にですか?!流石にそれはバレませんか?」
「いや、これまでのことから考えても、着実に手を広げている。ここに来て大胆になったんじゃないかな」
その言葉に、エメロードは何故そこまでほおって来てしまったのかが、不思議で仕方がなかった。
これは、王太子…ひいては国王の許可が必要なのに……。
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