第19話 お散歩


 朝からスフェールをからかって来たエメロードは、部屋に戻り朝食を食べた後は日課になりつつある、散歩へと繰り出した。

 ただ散歩と言っても広い王太子宮の中をだ。


 このグラナート国の王城は、意外と広い。

 そして後宮と言う場所は、王族のプライベートな場所になる。

 因みに王城は、政治的な部分を司っている。

 その中でも、この後宮は王城よりも広い。

 何故かと言えば、王族に関係する。


 前国王の時代まで、国王の側妃は四人までよかったのだ。

 勿論、王妃一人でもよいのだが、これは周りの貴族からも難色を示され、叶うことはなかった。

 まぁ、世継ぎを残すのも国王の勤めではある。


 つまり、国王と王妃が暮らす宮。其々の側妃が暮らす四つの宮が存在する。

 そこに更に、王子宮やら王女宮やら時には王妃、側妃では足らずに女性を囲った王も居たので、その女性達が暮らす宮まである。

 そう、大小様々な宮が点在するのだが、現在その宮を王族が使っているのは一部になる。

 なんせ、現在の王族は国王のアルコバレーノと王太子であるスフェールだけだからだ。


 何故かと言えば、先の戦争が原因だ。

 余裕がなかったのだ。

 世継ぎ問題よりも、国を守らなければならなかったのだ。

 戦争のせいで国内の力も弱くなり、其々の貴族も自領の復興に力を注いでいた。そんな中で、王妃だ!とか側妃に!とか争っていられなかったのだ。


 そんな訳で、ここぞとばかりにアルコバレーノは、スフェールの母のみを娶り愛したのだ。

 だか、王妃も病でスフェールが十ニの時には亡くなってしまった。

 その為、現在の後宮には二人しか使用する者が居ないのだ。

 悲しい話だ。


 それを踏まえてか、ここ最近ではアルコバレーノにも新たな王妃を!と言ったんだけど声も上がっている。

 だか、それにアルコバレーノが頑として首を振らないため、スフェールにそのしわ寄せが来ているのも事実だ。

 それがスフェールのイヤイヤ期&反抗期の理由の一部にもなってはいる。


 さて、そんな後宮だが現在の王太子宮と呼ばれる範囲は、二つの宮を含めている。

 一つは本来の王太子宮。

 もう一つは、側妃にと建てられた宮である。


 エメロードはその二つの宮の部屋を一つずつ回っているのだ。

 勿論、客人がそんな場所まで見るの?と言った場所まである。

 最初はグルナが誰か共を付けますと言っていたのだが、丁重にそれをエメロードは辞退した。

 まぁそれよりも先に、周りの人間達が『エメロードは変人』とレッテルを貼ったので、現在では誰も口を出すことを止めたのだが・・・。

 そして、今日は本来から王太子宮と呼ばれる宮の、最後の部屋の散歩が終わった。


「お嬢様・・・王太子宮はあらかた終わりましたね。明日からは元側妃の宮を調査しますか?」


「ん~そうしたいのだけれども・・・纏めたものと元の資料を比べるには時間が必要だから、一旦ここで区切りを付けましょう。それから細かい図面も欲しいところね。もしかしたら隠し部屋・・・と言ったものもあるかもしれないわ。そこにあれば良いのだけれど、無かった場合には調査が必要になるから」


「分かりました。暫くは忙しくなりますね・・・」


 イリアはそう呟くとため息を付いた。



 *  *  *



 暗い部屋の中を一人の人物がランプを持ち、階段を降りる。

 階段を降りきった先には一つの扉が。

 中へと入るとそこには、本棚と机それから椅子と言った物しか置いておらず、とても簡素な部屋だ。

 その人物は机の上にランプを置き、一人悔しそうに言う。


「うろうろと邪魔をする令嬢だ!ただ、王太子に目を向けていれば良いものを!まさか・・・ばれたのか?いや・・・そんなはずはない。秘密裏に運び出した物は、あのお方にお渡ししている。あのお方ならば、足が付くような真似はない。大丈夫だ」


 言葉に出した端から不安に駆られるが、大丈夫だと自分を鼓舞する。

 少し冷静になったのか、その人物はある一つの本を本棚から出してきて、それに何やら書き始めた。

 書き終わり、確認をするとその人物は、部屋を出て行った。

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