第11話 手紙と言う、報告書。 1
広々とした部屋は、陽の光がよく入る。
部屋の中には落ち着いた色合いの家具。
ひと際目を引くのは、中央に置いてある机だ。
そこへ一人の男性が、机の前にある椅子へと腰かけた。
アルコバレーノ・マリン・グラナート国王だ。
彼は、安堵のため息を付いた。
今日、戦友でもあり、裏から国を支えてくれても居る、ノレッジ・クリスタリザシオンの娘、エメロード・クリスタリザシオンが王城へと来てくれた。
正確には、呼び出したのだが・・・。
それでも、『ノレッジであれば拒否してくるかもしれない』と少なからず思ってはいた。
そして、エメロードに王太子殿下スフェールの事を話した。
彼女自身も戸惑い、明らかに『面倒だ』と顔に出していたのだが、この件を引き受けてくれた。
アルコバレーノ自身も困ってはいたが、“出来たらエメロードが、お嫁に来てくれないかなぁ・・・”とも思ってはいる。
だがこれは、無理やりでは意味がない。
それこそ、ノレッジに暗殺されてしまう・・・もしくは、国を見捨てられるかもしれない。
それだけは避けねばならない事でもある。
それにしても・・・と、再びスフェールの事を思い出す。
じつは、アルコバレーノもスフェールと全くと言ってもいいほど、話が出来ていない。
今の状態になった当初は、何回か話をしたのだが、それも次第にスフェールの神経を逆撫でするかの如く、話が出来なくなっていくのだ。
どこで、何を間違ったのか、アルコバレーノには分からなかった。
周りの家臣、宰相であるアンテでも分からず、唯一出た答えが『イヤイヤ期&反抗期なのでは?』だ。
それを聞いた時点でも、アルコバレーノには理解が出来なかった。
大抵の家庭では、その両方に殆どと言ってもいいほど対応してくれるのが、『妻』と言った存在だろう。
だが、スフェールには母親が居ない。
スフェールが物心つく前に、病気で他界したのだ。
これにはアルコバレーノのも大層ダメージを受けた。
スフェールは、それ以上だろう。
元から物分かりがいい方だったのだが、その一件以降それが顕著になった。
でも、少しずつ鬱憤が溜まっていたのだろう。
それが、爆発したのだ。
アルコバレーノ自身も、スフェールの内心に色々な葛藤があるとは思ってはいたが、大丈夫だろう・・・。と勝手に思い込んでいた節がある。
だからこそ、“王と王太子殿下”ではなく“父親と息子”と言った関係を疎かにしてしまった。
今回の事は、アルコバレーノとスフェールとの問題である。
そこに、緩衝材として間を取り持ってくれるであろうエメロードには、感謝をしてもしきれない。
アルコバレーノは思う。
「自分は本当に、周りの人々に恵まれている」と。
それと共に、この恩は必ず返さねば・・・とも。
じつは、アルコバレーノは国民には勿論、周辺諸国にまで『賢王』と名高い。
だが、本人はそうとは思ってはいない。
少なくとも、政治の面ではアンテやノレッジに支えて貰っている。
戦争時には、ノレッジにの知恵に助けられたし、彼の妻でもあるラーマの一族があってこその、勝利であると思っている。
それを自分だけが『賢王』などと呼ばれるのは・・・と、言ったこともある。
それに対して、ノレッジには「僕は主て舞台に立つ気がないからそれでいい」と言われるし、宰相として支えてくれているアンテには、「国王なんて職業は
それを聞いた時、「私は王族でもあるから、将来国王にはなると思っているし、当然だとも思っている。だが、これはあんまりではないか?」と言った。
それを聞いた二人は、それぞれアルコバレーノの肩を無言で叩いた。
あの時はあの時で大変だったが、国王になったら国王になったで大変だ。
(取り敢えずは、目先の問題を片付けよう。エメロードの報告はどんなものになるだろうか・・・)
聞くのが怖くもあるが、率直な第三者の回答は貴重だ。
アルコバレーノには、上手くいくように努力することが、今は重要だとちゃんと分かっている。
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