第10話 撤収

 

 取り敢えず、現在の王太子殿下スフェールの実態調査を終えたエメロード一行は、ぐったりとしながら自分の割り当てられた部屋へと戻って来た。


「まさかあそこまで酷いとは・・・・」


 お仕着せのまま、ソファにぐったりと横になってしまった主人を見て、イリアは言い放った。

 それを聞いたエメロードは、先ほどのやり取りを思い出していた。



 それはエメロードが、スフェールを可哀想な目で見ていたことが発端だ。

 よりにもよって、その顔がスフェールに目撃されてしまったのだ。


 現在の王太子宮には、限られた人員しかおらず、勿論スフェールの周りも顔見知りの人間が多かった。

 その為、エメロードが普段なら居ないメイドだとバレた。

 “王太子宮に新顔のメイドが居る”それぐらいなら、スフェールも特に気にはしなかっただろう。

 だがしかし、何度も言おう。

 スフェールが目撃したのが『エメロードが可哀想なものを見る目』をした顔だ。

 これにより、スフェールの興味を一気に煽った。


「おい、そこのお前」


 呼ばれた瞬間、『誰のことだ?』とエメロードは思った。

 だがしかし、次の言葉で分かった。


「そこのお前だ!」


 と苛立ちながら言い、スフェールはエメロードに向けて指をさしたのだ。

 これにより、エメロードは否応なく自分だと理解は出来た。

 だが・・・


(人に向けて指をさすだなんて!なんて教育をされてるの?!信じられないわ!子供じゃないんだし!・・・・いえ、そう言えばイヤイヤ期&反抗期中の子供だったわね)


 と、指をさされつつも考えていた。

 それがさらに、スフェールの怒りに火を注いだ。

 いつまでたっても返事をしないエメロードが、『スフェールを無視している』と捉えたのだ。

 実際には、失礼な事を考えていたのだが・・・。

 周りがハラハラするものの、呼ばれたエメロードはしらっとしながらも答えた。


「はい、何でしょうか?王太子殿下」


 そう答えたエメロードは、スフェールの怒りに今度は油を注ぐ。

 スフェールは、『自分をバカにされた』と今度は思ったのだ。


 スフェールは王太子殿下だ。

 今までにエメロードの様な、無礼な態度をしてきた者は居ない。

 勿論スフェール自身も自分が、王太子殿下と言う役割をよくわかっている。

 だからこそ、普段なら感情をこうも露わにすることもない。


 だが今は違う。

 なんせ絶賛、イヤイヤ期&反抗期なのだ。

 ちょっとしたことでも気に障る。

 そこにエメロードのこの態度・・・怒らない訳がない。


「殿下。大変申し訳ございません。この者は最近、王宮に上がったばかりで何分、宮廷作法が身についておらず・・・」


 すかさずグルナのフォローが入るが


「女官長。私が聞いているのは、そこの娘だ。娘、何故其方の様な者が私の宮に居る?今ここには、私に昔から付いている者がほとんどだ、お前の様な娘が居る事のが可笑しいだろ?」


 スフェールはとにかく、エメロードが自分の側に居る事のが気になるらしい・・・。


「はい。現在の王太子宮には、限られた者しか居ないとお聞きしています。私はグルナ女官長の遠縁の親戚になります。元々は貴族の端くれでしたが、家が没落し身売りをしなくては、ならないような状況になった時、グルナ女官長が私を条件付きでこちらに雇い上げて下さいました」


 前もって考えておいた話を、エメロードはスフェールに説明をする。


「ほぅ、没落?たいして貴族の役目も果たしていなかったのだろう。女は家の事をしていれば、暮らしていける・・・なんて甘い考えだ。身売りをしなくて済んで良かったな。女官長に感謝しろ。だが、ここを追い出されたくなければ、私の機嫌を損ねるようなことはするな!」


 そう言い放つと、サッサと出ていけと言うように、エメロードを追い払う仕草をした。

 これには、エメロードもこの部屋に居る誰もが、驚きを隠せずにいた。


 そうして、エメロード一行はスフェールが居る部屋を、後にした。

 その後、エメロードがグルナにスフェールの態度のことを聞いたら、グルナは大層ショックを受けていた・・・。

「今までに誰にも、あんなことを言ったことがない・・・」と。


 この言葉を吟味せずとも、状況が自分が思ったよりも何倍も悪い事が判明した。

 だが、エメロードは俄然ヤル気になった。


(これはアルコ小父様に、強硬手段をとって良いのかを確認しないと・・・)

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