第9話 心して行きましょう!

 

 注意事項をグルナから聞き、現在の状況に嘆きながらもやっと王太子と、面談・・・基、給仕をしつつの偵察にイリアと共に来た。


 そして現在、午後のお茶の時間なのだが・・・


「なんだコレは?この時期ならば、イノレック産の物のが美味いだろう!そちらを直ぐに用意しろ」


 と王太子殿下が、目の前に居る侍女に言い放った。

 因みにこれが二度目になる。


(確かに王太子殿下の言う通り、今の時期ならばイノレック産の物が旬なのだけれど!だけれど!なんなのあの態度は!せっかく用意して貰った紅茶に手も付けずに、次!とは、あぁ~勿体ない・・・あの一杯だけでも貴重な茶葉なのに・・・)


 と、エメロードは王太子の素行に腹を立てつつも、論点がズレている状態である。

 仕方がない。自分が大好きなものをぞんざいに扱われて、喜ぶ者などいないだろう。


 それにしても・・・・とエメロードはここぞのばかりと、王太子殿下スフェール・エグ・マリン・グラナートを観察する。


 外見は一言で言えば、『物語に出てくる王子様』その人だ。

 髪は淡い金髪に、空を映したような瞳。

 女神に祝福されたような容姿で、微笑めば百人の老若男女問わずに、陥落する・・・と言われる。基、事実そうなのだが。

 そんな“見ているだけで目の保養”な王太子殿下は、現在進行形で仏頂面だ。


(本当に何が気に食わないのかしら?)


 そう思ってしまうのは仕方がない。

 現に誰も大きなミスもしていなければ、不遜な態度も一切ない。


「スフェール殿下。我儘はそれくらいにしましょう」


「なんだカイユー。これ程のこと、我儘にもならないだろう?」


 心底不思議に・・・ではなく、あの顔は分かってはいる様だ。

 現にカイユーと呼ばれた騎士からの注意には、バツが悪そうな感じで答えてはいる。


 エメロードは、チャンスではないか?と思った。

 スフェールは現在、「誰にも注意が出来ない状態でここまで来てしまった・・・後には引けない・・・」と言った状態に陥っているのでは?と。

 なんにせよ、遅いイヤイヤ期を伴った反抗期なのだ。

 スフェール自身もいい大人だ。

 きっと分かってはいるのだろう。

 ただ収まり処が分からない・・・と言った事ではないか?と。

 だがその考えが次の会話で霧散する。


「殿下、そろそろ公務の続きをしましょう」


「公務?必要な物は午前中に片付けただろう」


「それは“最低限のもの”になりますよ」


「はっ、そんなもの出来ると思っている連中が、やればいい」


 そう言って話はこれまでだと言うように、そっぽを向いてしまう。

 この会話を聞く限り、ただのイヤイヤ期ではないのでは?とエメロードは考える。


(イヤイヤ期と言うよりも、反抗期が強いかしら?イヤイヤ2:反抗8と言ったところかしら?)


 全く以てイヤイヤ期と反抗期しか、スフェールには無いと思っているエメロード。

 既に、スフェールを可哀想な目で見ている。


 それにしても・・・とエメロードはスフェールの側に立つ騎士を見る。

 先程、カイユーと呼ばれた人物だ。

 エメロードから見るに、カイユーの言葉にはスフェールも渋々ではあるが、聞き入れているように見受けられる。


 グルナからは彼の話は聞いてはおらず今後、彼を味方に付けたのならばいい方向に持って行けるかもしれない・・・と思えた。

 なんにしても、王太子殿下スフェールの第一印象は、エメロードの中では全く以て良くなかった。

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