第8話 手を額が、覆ったままになります。

 

 早速、潜入調査・・・となったのですがその前に、『注意事項』が思ったよりもありました。

 それを聞いた時には「本当ですか?」と、イリアと一緒に絶句した。


 何が?と言うと、王太子に関してだ。

 まず、王太子の現状から話すと、現在の王太子の公務は無いに等しい。

 正確には、どーーーーーしても必要な書類等の認証や、業務に関しては行ってはいる。渋々ではあるが・・・。


 では、その他に何をして一日を過ごしているかと言うと、一言で言えば『ほぼ食っちゃ寝生活』だ。

 “ほぼ”と付くのは、適度に王太子宮内ではあるが、散歩や読書等をしたりするからだ。

 だが、それ以外は基本的に部屋からは出る事が無いそうだ。

 そう、イヤイヤ期の引きこもり・・・。

 これにはエメロードも驚きよりも、呆れるしかなかった。


(私でさえも、もう少し行動をするわ・・・。それにしても体が鈍らないのかしら?私なら、剣の修行や乗馬、それからダンス等するのだけれど・・・そう言えば大概の令嬢は、剣を扱うことはないわね。でも王太子は、男性でもあるから稽古をしたりしないのかしら?)


 呆れた先で、エメロードは思考が、どんどんズレていく。

 仕方がない事だ。


 だが、しかし、これでは終わらなかった。

 なんと行動の先々で、イヤイヤが発揮されるのだ。

 それは食事から始まり、指示したことに対して意見を翻したり・・・迷惑極まりない。


 そして、その事ごとに関しての注意事項だった。

 例えば、「喉が渇いた」と言われたならば、飲み物を用意する。


 普通に考えるならば、“お茶”を用意するだろう。

 これを王太子に出した瞬間に、「搾りたてのオレンジジュースが良い」と言われる。

 そして言われた、オレンジジュースを王太子に出す・・・・と、今度は「アイスティーが飲みたい」と。


 基本的にこの様な事が、何に対しても毎回起こる。

 ・・・・知恵があるぶん、その辺りに居る子供よりも質が悪い。


 これに王太子宮で働く皆さんは、何一つ文句も言わずに従っている。


(私なら、我慢出来るのが、最初の一日だけだわ・・・。次の日には、我儘を言われた瞬間に、料理なり飲み物なり頭からかけいるわね。食べ物には申し訳ないけど・・・。それにしても、この状態が外に漏れたら大変とかの話ではないわね。この状況を、隠し続けている王宮側は、本当に凄いわ)


 働いてる方々に、関心はするものの、疑問もある。


「何故、皆様は何も注意しないのかしら?」


 その疑問にはグルナが、返答をくれた。


「先程も申し上げた通り、現在の王太子宮には“昔から”仕えている者が殆どです。それ故に困惑をしてもいますが、仕方がない・・・とも思っております」


 グルナの話曰く。


 このイヤイヤ期は突如として、現れたそうだ。

 そして、そんな王太子を目の当たりにして、王太子宮で働く者達は、「とうとうか・・・」と思ったそうだ。


 幼少期より王太子は“いい子”だった。

 幼い子供なら、我儘の一つや二つ・・・いや、ほぼ毎日言うだろう。

 それが、無かった。


 小さな時から、父王の様に・・・と言い文句も言わず、毎日を「父上の様に国民に慕われる王になりたい」が口癖だった。

 誰にも文句も言わなければ、泣き言も言わない。

 その内に、鬱憤が爆発するだろうその時は、受け止めてあげよう。

 それがこの宮では、暗黙の了解になっていた。

 だから、現在のこの状況を困惑をしつつも、全てを認めている・・・と。


 と、言うのが表向きではあるが、本当はこの時期、この年齢になってからの、この状況をどうしたら良いのか分からずにきてしまった・・・と言うのが、本音だった。


 つまり、どうしたら良いのか分からない為に、甘やかしてきてしまった・・・と言う事だ。

 なんてことだ・・・と、イリアと共にエメロードも、額を手で覆ったまま動くことが出来ずにいる。


(言わせてもらいたい・・・皆して、甘やかしすぎでしょ?!)

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