第7話 それでいいのですか?


 パタンと部屋のドアが閉まると、エメロードは手近なクッションに顔を埋め


「あーーーーーー本当に、面倒ーーーー!!!」


 と叫んだ。

 エメロードにしては我慢した方だろ。

 国王からの依頼でなければ、『ほっておきましょう!』と言った時点で、笑顔でそそくさとその場を後にしていただろうから。


「お嬢様、はしたないですよ」


 すかさず、イリアの注意が飛ぶ。


「大目に見てよ・・・。イリアだって聞いていたでしょう?イヤイヤ期よ?!どこの五歳児ですか?って話よ?王太子殿下は既に成人もしてるのよ?おかしいでしょ!?」


「はいはい、そうですね。でも引き受けたのですから、全力で取り組みましょうね」


 なんとも適当な言葉だ。

 これにはエメロードも膨れっ面になる。


「・・・・もう、仕方がない。やってやりますわ!」


 エメロードはめんどくさがりでもあるが、『思い立ったら吉日』な思考の持ち主でもある。

 つまり、『ヤル気になれば出来る子』なのだ。

 スイッチが何処にあるのかは、本人にも周りにも分からないが。


「では、何から始めますか?」


「そうね・・・先ずは情報収集がしたいのだけど、王太子殿下に先に会ってみようかしら」


「いきなりですか?もう少し周りの環境を、見てからにしませんか?」


 その言葉にエメロードは二ッと笑った。

 瞬時にイリアには、嫌な予感がよぎる。


「イリア、何も正面から会いに行くなんて言ってないわ。まずは手始めに、グルナを呼んで頂戴」



 *  *  *  *



「本当によろしいのでしょうか?」


「大丈夫ですよ・・・たぶん」


 オロオロとするグルナに対して、イリアは何とも言えない返事をする。

 何故ならば、目の前に茶髪の鬘を付け、眼鏡をし、侍女のお仕着せを着たエメロードが居るのだから。


 エメロードが言うには「潜入調査」だそうだ。

 因みに、エメロードだけでは不安なので、イリアも王太子宮の侍女のお仕着せを着ている。


「さて、グルナ。現在の王太子宮の話を聞いてもいいかしら?」


 その言葉に、頷くグルナ。


「王太子宮に入ってから感じた事なのだけれど、明らかに人が少ないわよね?」


「はい。現状が現状なので、現在こちらに居るのは、昔から王太子殿下に仕えている、口の堅い者達になります。なので、数はそう居りません」


「こうなる前には、行儀見習いも居たのでは?」


「そうですね、王城よりは遥かに少ないですが、居りました。現在は理由を付けて、王城勤務にしております」


「それは、大変ね」


 エメロードが同情するのも無理がない。

 行儀見習いとは、貴族の子女が箔付けや結婚相手を探しに王城に勤める事だ。

『王太子宮に仕えている』と言う事は、目的は王太子殿下に違いない。


 それは本人が望んだものか、政略なのかは分からないが・・・。

 理由を付けて遠のかせるのは、さぞかし大変だっただろう。


「でも、人が少なくて王太子殿下に面識がある人達ばかりなら、私達はさぞかし浮いた存在になるわね・・・どうしようかしら?」


 暫く顎に指をやり、考えるエメロード。


「そうだわ!私達は、グルナの遠縁の親戚にしましょう!設定は、『家が潰れて路頭に迷い、身売りをするしかない・・・と思っていたところを、グルナが条件付きでこちらに勤めたさせた』って事にしましょう!」


 さも良いことを思いついた!どう?と輝く笑顔で言い退けるエメロード。

 グルナは唖然とし、イリアは慣れた様子で頷いた。


 設定に、「路頭に迷った」だけでいいのに、わざわざ「身売り」まで入れるのは大げさだが、本人がヤル気になっているのだ。

 ここで話の腰を折り、ヤル気をなくされるよりかはましだ。

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