第12話 手紙と言う、報告書。 2


 その日の夜。

 アルコバレーノの、寝室からの続き部屋・・・リビングのソファで寛いでいると、天井から一通の手紙が落ちて来た。


 驚くことはない。驚くことは。

 だが、ここまで侵入出来ているとは・・・とは思う。


 その手紙の差出人は、エメロード。

 と、言う事は持って来たのは、クリスタリザシオン・・・又は、エメロードの母マーラの実家である、シュヴェールト家で鍛え上げられた者達であろう。


 勿論、王宮内には兵士もいるし国王でもあるアルコバレーノの、私室付近であれば裏も表も警備は厳重にされている。

 それでも、エメロードの手紙が天井から落ちてくるとなると、快く道を譲ったか誰にも気付かれずに来たのかの二択だろう。

 本当に敵に回したくない、二家だ・・・。


 さて、気を取り直して・・・とアルコバレーノは手紙の封を切った。

 そこには綺麗な字で流暢な文字が見て取れる。



 “アルコ小父様へ


 朝方ぶりになりますね。

 早速お話していました、報告書をしたためさせて頂きました。

 お話では、「女官長を通して・・・」と言われておりましたが、誰にも見られない方が良いだろうと言う判断から、直接お届けさせたことをご了承ください。


 さて、本題になりますが・・・なんなんですか?!あの王太子は!!

 面と向かっては、相手もしてもらえないと思ったので、対策が出来ないだろうと、侍女になりすまし王太子殿下を観察したのですが、あの横暴な態度!


 なにが『絵本から出て来た正に王子!』ですか?

 巷の噂とは、本当に信憑性がありませんね。


 えぇえぇ、淡い金髪に空を映した瞳。

 女神に愛された様な容姿・・・までは問題ありません。

 黙って佇んでいれば、大抵の女であればいちころでしょう。


 ですが、中身がアレなら貰い手・・・いえ、嫁いでくる方が不憫でありません。

 そんな方が出ないように、我が家にて調整した方がよろしいでしょうか?

 他国から嫁がれた場合には、我が国の恥が広まります。


 その他にも、食べ物を粗末に扱う、人をこき使う・・・と見ているだけでも呆れます。

 それからあの物言い。

 なまじ頭がいい部類に入るので、無駄に頭を回転させて言葉の暴力を吐く。

 あのような言葉を、国王となった暁に言われたら・・・考えるだけでも恐ろしい!!

 国は一夜で、傾くと思います。


 その際は、我が家もシュヴェール家も関わらないように、領民と共に領地を守る方針をとることを、お父様に申し上げます。



 話がズレましたが、本題ですね。

 もし、本当に、アルコ小父様があの王太子殿下の厚生を願うのならば、実力行使に出ることを許可してください。

 あの根性、叩き直して御覧にいれます!!


 お返事をお待ちしております。

(期限は明朝としますね。お返事がない場合は、許可が下りたものとして扱います)


                                エメロード”



 と、手紙と言う報告書・・・ではなく、報告書と言う愚痴が綴られていた。

 これには流石のアルコバレーノも絶句。


 どうしたら、侍女で本人が乗り込もうと言う発想に至るのか?

 どうしたら、あの基本的に面倒くさがりな為、殆ど怒ることなどないエメロードを、ここまで怒らせることが出来るのか?

 どうしたら、実力行使で叩きのめす方向に話が持っていかれるのか?

 ほとほと、アルコバレーノには疑問だ。


 唯一言えることは、直ぐに手紙をエメロードに書き、制限の鉄槌をある程度、緩和してくれる様に頼む手紙を書くことだ。

 実力行使は仕方がない。

 何事も諦める事が大切な場合があるのだ。

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