第3話 令嬢とメイドのお茶会

 

「一体どう言うことなの?」


 ここにきて又もやエメロードは困惑していた。

 何故ならば、城に着き次第すぐに王太子宮に連れて来られたのだ。

 しかも裏口から・・・。


「ねぇ、イリア。私達はなんで裏口から、王太子宮に案内されたんだと思う?陛下から任命を直々に貰ったのよ?扱いおかしくないかしら?しかも説明が一切ないのよ?私、帰りたい・・・」


「もろもろ分かりませんが、最後のお嬢様のお願いは、叶えられそうにありません・・・・。先程、案内した者もこちらで、待つようにしか言わなかったので・・・・」


 二人で顔を見合わすも全く以て理解が出来ない。

 何故ならここが『王城』ではなく『王太子宮』だからだ。


 エメロードは、王都の屋敷に行くつもりだったのだ。

 それが、屋敷に行けば『王城内に部屋を用意したから、そちらを使うように』と陛下から連絡があったらしい。

 なのに通されたのは、王太子宮。


 その名の通り、王太子宮は『王太子』の私室がある場所だ。

 今回、エメロードは『王太子殿下の教育係』に任命はされたので、こちらには来るかも知れない・・・とは思っていた。『教育』と言う関係上では・・・・。


 思ってはいたが・・・・・思ってはいたのだが、ここに住むことになるとは思っていない。

 だが、エメロード達が居る部屋には、既に荷物が届けられており、これからこの部屋を使う事が容易に分かる。


「これは家への報告が大変だわ・・・。なんて説明したら良いと思う?」


「・・・・・ありのままが良いかと。下手に隠されても、後々にバレますから」


 そう言って天井を見るイリアに、エメロードも頷くしかなかった。


 そこへノックが。

 エメロードがイリアへ入室の許可を出す。

 現れたのは、一人の女官。


「失礼します、クリスタリザシオン様。王太子宮の女官長を任されているグルナ・レヴィジュと申します。本日より身の回りのお世話をさせて頂きますので、よろしくお願い致します」


 そう言ってお辞儀をした彼女は、女官長と言う割には若いように感じる。


(これからお世話になるのだから、いい人間関係が築けるといいな・・・)


「これからよろしくお願いしますね、レヴィジュ様」


「どうぞグルナとお呼び下さい、クリスタリザシオン様」


「分かったわ、グルナ。それで・・・さっそくなのですが、こちらの部屋は私が使う部屋で間違いがないのかしら?」


「はい。こちらのお部屋で間違いはありません。何か問題がございましたでしょうか?」


「いえ確認を、と。なにせ私は国王陛下に呼ばれたのに、王太子宮へ来たものだから・・・なぜこちらに部屋を用意したのか分かりますか?」


「それは・・・後ほど、陛下が御出でになります。陛下よりお話をお聞きください」


 そう言って一礼するとグルナは部屋を後にした。



「・・・・・・・ねぇ、イリア。どう思う?」


「そうですね・・・・あんなに若い女官長は初めて会いました。人事的に問題があるのでしょうか?それに女官長の口から説明出来ない・・・それを考えると、思っていたよりも自体は、深刻なのではないでしょうか?」


「そうね・・・確かに王太子宮と言う割には人の気配が少ないわね。とにかく陛下を待ちましょうか」


 そう言って、イリアはエメロードにお茶を淹れさせた。

 本来であれば主人であるエメロード自身が、お茶を淹れる事はない。

 だが、イリアは敢えて自分でお茶を淹れる、エメロードを止める事もしない。


 何故ならエメロードの趣味が『お茶を淹れる事』であるからだ。

 その腕前は、イリアおも凌ぐ。

 下手をすれば、クリスタリザシオン家では一番上手いと思う。


 そのお茶を淹れる事で、敢えて心を落ち着かせようとしているエメロードを止める事は出来ないのだ。

 エメロードもイリアが分かっていてくれるので、自分でお茶を淹れている。


(こうやって、自分を分かってくれている人が側に居てくれるのは、とてもありがたいことだわ)


 そう思うからこそ、エメロードもイリアに頭が上がらないのだ。

 お茶を淹れ、そこから二人の御茶会と言う名の『作戦会議』が始まった。

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