第2話 旅立ち


 イヤだなんて言っていても、問題は解決はしないもので、あれから数日が過ぎ本日めでたく、王都へ出発することになった。


「エメロード・・・心配だよ、僕の天使!どうしよう、王太子に見初められて王太子妃にとか言われたら!!僕は反対だよ!エメロードには恋愛結婚をして欲しいから・・・無理強いなんてっ!!」


「何かあれば連絡を頂戴。あれから探ってみたのだけれど・・・・芳しくないのよ。こんな王城に行かせるなんて・・・・」


「僕の方でも調べたんだけど、『王太子宮から殆ど出ていない』って事しか分からなかった。危険はないとは思うけど、無理はしないようにね」


 ぎゅうぎゅう抱きしめる父を宥めながら、母の言葉に頷き、兄の言葉を噛み締めた。


 父ノレッジ・クリスタリザシオンは、ふわっとした茶髪に緑の瞳。ぱっと見は優男ではあるが、どちらかと言えば頭脳派で先の戦では、彼の知識が大いに活躍しグラナートを勝利に導いた、『知のクリスタリザシオン』とは他国でも有名である。


 対して母ラーマ・クリスタリザシオンは、黒髪に金の瞳の涼しげな美人で『氷の騎士』と言われる、二つ名を持つ騎士でもあり、今も東方騎士団に所属する団長である。

 旧姓であるシュヴェールトは、武を名門とする一族で、強さが全ての脳筋の節がある。


 最後には力がものを言うのだ、ただ強ければいい。そこに男だからとか、女だから・・・といったことは全く含まれない。


 兄のブビリオ・クリスタリザシオンは、父譲りの色彩だが瞳は深い森の緑。エメロードをこよなく愛してくれており、ややシスコン気味ではある。

 それに対してエメロードも兄が大好きな、ブラコンである。

 エメロードのだいたいの性格は、ブビリオに似ていると言われても仕方がない。


 父をあやしつつ、エメロードは『恋愛結婚』の言葉に、小さい頃に聞かされた話を思い出していた。

 昔、母は「貴女の父上は私を殺さないための、戦略を立てるのが仕事なのよ」と私に言ったことがある。


 母は戦場で強さも備え、多くを生かす戦術を生む父に惹かれたそうだ。

 そんな二人は、もちろん恋愛結婚だ。出会いは戦場だが・・・。


(お父様とお母様をみていると、私もこんなふうに一緒に居られる方とめぐり会いたいと思うわ。理想の夫婦ってやつね。ただし・・・私は恋がどんなものか分からないから恋愛結婚は難しそう・・・。どうせ結婚をするなら相手は強い方が良いわ!簡単に倒される人物は、クリスタリザシオンでは生きてはいけないだろうし・・・・)


 いろいろと指示をしている母と、イリアと話している兄を眺めながらそう考える。


「僕の天使、嫌な事があったら帰って来て良いんだからね。後始末は僕の役目だから。大丈夫!跡には残さないから!」


「・・・・お父様が言いたいことは、何となく分かりますが、なるべく穏便な方向で事前に私にも提示して下さいますか?私も参加したいので」


 笑顔付きでお願いをする。


(放っておいたら、王太子殿下暗殺とかしでかしで怖いわ)


 そう。この父親、顔も広いので協力者とかがごまんと出てきそうだ。

 それに兄が便乗したらそれこそ、国家転覆とか、王太子殿下暗殺とか国王陛下暗殺とか、計画し出したら大変だ。止められる気がしない。


 この一家には、家族・領民以上に大切なものはない。

 それこそ王家とか、くそくらえ!な話になってしまう。


 とにもかくにも、全ての事に対して不安ではあるが、呼ばれたものは仕方がないので


「報告はちゃんとしますから大丈夫ですよ。では、行ってまいります」



 三人を安心させるように微笑み、イリアと共に馬車へと乗り込んだ。

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