「激務」②
あっつい。今、男が居なければこのシャツすら脱ぎ捨てたいところだ。王都から歩いて2時間程経っただろうか。休憩しながら歩いてもうじき、火山に着くかといったところだが既に暑い、いやむしろ熱い。そしてここに来るまでの道中で、既に疲弊している。
平原から火山に近づくにつれ、草木は枯れ、地は乾き、水分が失われつつあるのが分かる。事前に二人がきちんと準備してくれていなかったら、辿り着けてもそこから火山を登るだなんて到底不可能だっただろう。
私にとっては、先ほどの戦いは激闘そのものだったが、二人にとっては肩慣らし程度のものだったらしい。やはり二人はこの世界の住人で、私はもっと弱い存在なんだと再認識する。
「師匠!そろそろ山の麓が見えてきましたよ!」
アイリスが元気そうに声を出す。前を見てみると、確かに上り道になっている山が見える。
僅かに地鳴りのようなものがしているのが、こちらの足にも伝わってくる。それから脇に見えるものはマグマだろうか。
「え、マグマとかある感じなの?」
「ええ、まあ火山ですから。」
まじかー、火山にマグマって当たり前にあるんだ。私の世界が、イージーモードだっただけかもしれない。
「言わなくてもお分かりかとは思いますが、触れないように気を付けてくださいね。」
「わ、分かってるわ。にしても……。」
暑い、とにかく暑い。ヒラヴィスはスーツを着ているが、涼しげな顔をしている。暑くないのか?
「ヒラヴィスは暑くないの?そんな恰好してるけど。」
「まあ、暑いと言えば暑いですが。取り乱すほどのものではありません。」
すげーな執事、感服しました。
「さて、ここからは気を付けて進まないと。火山にも当然魔物は存在します。それに私達の目標である、燃え盛る花を見つけないといけません。そのためには、山の頂上まで行く必要があります。」
なんかすごいネガティブになってきた。 私、狼一匹にあんなに苦労したのに、火山にいる魔物とか戦えるのか。なんか漠然と強そうなイメージ持ってるけど。
「さあ行きましょう師匠!私達の家のために!」
「そ、そうね。行きましょう。」
なるようになれとは言えない。歩きながら何か考えないと。
――暑い暑いと言いながら、もう一時間は歩いただろうか。山の高さ自体は大したことがないと言っていたが、どれくらいで山頂に着くんだ。
そう言えばこのハンコ、魔法のアシストをしてくれるとは言っていたが、どうすれ使えるんだ。店員曰く、自分がイメージしたものが魔法として具現できるものであり、尚且つそれを具現化するだけの力が自分にあれば、後はこのハンコを押すだけらしい。
要は、最初からめっちゃ強い魔法とか使えないけど、全てが合致したらなんか出るってことよね、多分。
私が事前に準備できることと言えば、この魔法のイメージくらいか。と言っても、何をイメージすればいいんだ。単純に炎や雷が出てくるイメージでいいのか?でもそれも、具現化するだけの力が自分の必要らしい。ここはアイリス達に、少し協力を仰ぐか。
「ねえ、この武器が魔法をアシストしてくれるとは言っていたけど、具体的に私はどうしていればいいの?」
ヒラヴィスがこちらを振り返り、指を顎にやり考えるポーズをとる。
「私もそれを使ったことがあるわけではないので何とも言えないのですが、話を聞いた所感ですと、使用者に足りない魔素を増幅させるのではないのでしょうか。」
また聞いたことない単語が出てきた。魔素とはなんだ、魔法に関係する成分なのは文脈からなんとなく想像つくが。
あまり分からないような顔をしていると、それに気付いたアイリスがフォローを入れてくれる。
「魔法というのは、大気中に存在する魔素を取り込み使用するものです。なので、大きな魔法にはそれだけ大量の魔素を使用します。取り込む力の強さが、魔法をうまく扱える扱えないに関わってくるわけですね。」
なるほど、つまりこの世界で魔法が使えるというのは自身が生み出せる力だけではなく、環境にも起因していたいね。
ヒラヴィスはキョトンとした顔をしているが、おそらく今アイリスが教えてくれたのはこの世界での基礎知識なのだろう。二人にとっては当たり前のことなのだろうが、私にとっては今聞いた全てが未知だったので、アイリスの機転で助かった。
「つまり、魔素を取り込むこと自体をサポートしてくれる可能性が高そうです。後はあゆ様が、魔法自体を想像し、具現化する能力次第ですね。」
「言われたことは分かったわ。でも、魔法を想像っていうんのは、炎とかを体から出したりするのをイメージしたらいいの?」
「最初は師匠の言うような感じで模索するしかないですね。自分に合った魔法を見つけるまでは、失敗を繰り返すことになると思います。如何に優れた魔術師であっても、魔法の中に得手不得手があると言われています。自分と波長の合ったもの以外は扱いにくいというわけですね。」
仕事でも適材適所あるように、潜在的に得手不得手があるというわけね。要はセンスの問題ってことか。
「ここで気を付けないといけないのが、取り込んだ魔素だけでは魔法は使用できないということです。自分の体内にあるエネルギー、つまり魔力を消費しないと放出することはできません。なので魔力を一度に使いすぎると、体にも影響してきてきますし、自分のキャパシティ以上の魔法を使うことはできないわけですね。」
「分かりやすい説明をありがとう。自分の能力以上の仕事はできないというわけね。」
「そういうことになります。でもこれは鍛えることができますから、また一緒に訓練しましょうね!」
「ええ、ありがとうねアイリス。」
アイリスが上司だったら、嬉々として仕事したかもしれない。部下への丁寧な説明、不明瞭なことは自身と共にという姿勢、あまりにも素晴らしすぎる人材だ。
更にそこから二時間ほど歩いた。依然暑さが変わることはないが、まだ頂上には着かないのだろうか。実際には、よじ登ったりというかはきつい傾斜を歩いている感じなのだが、軽く補装されているような気もする。
「やはり変ですね、ここまで歩いて確信に変わってきました。」
急に口を開いたヒラヴィスが不穏なことを言う。こんな過酷な環境なのに、まだ何かあるというのか。
「実は、この火山に入ったのは初めてではないのですが、以前に来た時より静かすぎる。もっと魔物に遭遇してもいいはずです。」
確かに、事前に火山の中に魔物がいると聞いていたが、まだ一度も遭遇していない。
「でもだからって何があるの?魔物と遭遇しないのならそれに越したことはないと思うんだけど。」
「ええ、確かにそうなんですが。……なんだかこの静けさは嫌な予感がします。気を付けて、そして迅速に進みましょう。それにそろそろ山頂に着いてもおかしくない時間のはずです。」
そう言った直後くらいに、
「山頂が見えてきましたよー!」
というアイリスの言葉で少し元気が出てきたのであった。
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