「初出勤」④

 私の装備を整えるために武器屋へ向かうことになった。ずっと宿で借りてる靴を使うわけにもいかないし。というか服はそのままだったのになんで靴は履いてなかったんだろう、トラックにはねられた時に脱げたからなのかしら。

 お金の方はアイリスが、

「私達は一心同体になりました!ということは、私とヒラヴィスが持っているお金は共有財産です!」

 と言ってくれたことで出してもらえることになった。ヒラヴィスが加わったことでどうなることかと思ったが、ヒラヴィスも素手で何もできないよりは、ということで最初に買ってもらう装備に関しては二人が出費してくれることになった。


 そして、武器屋に向かう道中で改めて聞いてみる。

「ねえ、さっきの話なんだけど。つまりお使いしてくればいいのよね?」

「ええ、そうです。さっきのご主人の話だと、王都の東にある火山の頂上に生えているという燃え盛る花を取ってこい、という話でした。とても珍しい花でして、すぐに花が枯れてしまうことから取引自体がほとんどされていないという代物です。お金を積んだからといってなかなか手に入るものではないですね。」

 なるほど、そういうことだったのか。その手の知識は、ヒラヴィスが豊富みたいだから、なんだかんだ彼が加わってくれてよかったと思う。

「でもそんなに希少価値の高いものなら、私達なんかで入手できるのかしら?」

「そこが問題ですね、恐らくどうせ手に入らないだろう、と思って今までの人も諦めてきたのでしょう。」

「手に入らなかったらどうしたらいいのかしら……。」

 無駄骨なんてことは避けたい。ただでさえ、余裕がないのだから。

「きっと見つかりますよ!師匠ならきっと大丈夫です!」

 なんの根拠があって、とツッコミたかったが、それを言ったところで状況が好転するわけでもない。そうね、と返事をして武器屋に向かうことにした。




「いらっしゃーい!フロウの大体なんでもある武器屋だよー!」

 店に入るとやや若めの女性が出迎えてくれた。店の中もそれなりに広くて、いたるところに剣や斧、槍や杖などが飾ってある。

「あのー、すいません。師匠に扱える武器を探しているのですがー。」

 アイリスが尋ねる。というかここまで来たはいいものの、どんな武器がいいのだろう。はっきり言って、私に剣や斧が扱えるとは到底思えない。

「どんな武器がいいんだーい?まあとりあえず見てってくれよ!」

 そうだな。とりあえず、どんなものがあるかを見てみよう。


 店内を見渡す。私にも扱えそうなものはないかとぐるりと一周してみた。重たいものは無理だろう。ためしにと思って剣を一つ持ってみたが、想像よりもかなり重くてこんなもの振り回せないだろう、と断念した。

 と、なればやはり軽いものだが。軽い武器と言われたらナイフや杖が目に付く。私の勝手なイメージだが、ナイフは確かに扱えるだろうが、ほかの武器よりも手練れの者が使う武器だろう。手数、それから致命傷を与える場所に、的確に攻撃する必要がありそうだ。

 杖はどうだろうか。これがあったら魔法がそれだけで使えたりするものなのだろうか。もしそうなら、これは私に適している。

「そういえばアイリス、魔法ってどうやって使うの?」

「魔法ですか?私はヴァルキリーですから、簡単な治癒魔法とかは訓練してきましたが、あまり得意な分野ではないので……。受け売りで言うなら、才能や努力で会得するものらしいですよ。」

 やっぱりうまくはいかないか。聞いたところによると杖というのは、その力を増幅させるためのものらしい。

 と、したら私ってほんとに何ができるんだ。ただの足手まといにしかならないのか……。そう考えていると、驚くべき光景を目にした。


 見覚えがあるものだ。私が向こうの世界で、よく使っていた。それを凝視してしまう。

「師匠、言いにくいのですが、ハンマーを扱うのは師匠には難しいかと。重たいですし……。」

 え、これハンマーなの?まじで?あまりの衝撃に手に取ってみる。サイズは他のものよりは小さく、重いのは重いが動きに支障をきたすほどではない。両手で振り回してみても、そこまで扱いに困るものではなさそうだ。

「それは少し小さなハンマーですね。私も見たことがありません。しかしあゆ様、それで本当に戦えるのでしょうか。」

 いやそれなんだ。本当にこれで戦えるのか?見たところこれで殴る、以外の選択肢はなさそうだが。


「おや、そちらの商品?それはハンマーといえばハンマーだけど、別の使い方もできるよ!」

 なんだって、これにどんな使い道があるんだ。

「その持ち手と逆の、大きな四角があるところに自分で魔法陣や、呪文をイメージするんです。そうすると、使用者が魔法を使うアシストをしてくれるんですよ。言うなら魔法が使えない人のための補助道具です。ただ、物理的な攻撃性能は高いと言えないし、魔法が使える人間にとっては必要のないもの

だから使用用途が限られてるの。まあだから売れ残ってるんだけどね!」

 私にもってこいの武器じゃないか。そんなにぴったりのものが見つかるなんて。ビジュアル以外は完璧だ。

「アイリス、私これにするよ。」

「え、いいんですかそれで。正直そんなに強そうに見えないですけど。」

「大丈夫、きっとこれなら私も戦える。本能がそう言ってる。」

 なら決まりですね!と、アイリスが会計を済ませにいった。どうやら値段もそれほど高くないようで、二人に負担をかけることもなさそうだ。


 使い方を武器屋の店員に聞いた。結局のところ、アシストはしてくれるが、魔法を使えるか使えないかは私の問題らしい。まあダメならダメな時に考えよう。

 一緒にブーツも買ってもらい、店を出た。あとは火山とやらに行き、花を摘んでくるだけだ。なんだか順調に進んでる気がする。


 私は両手で振り回せるサイズの角ばったハンコ型のハンマーを肩に乗せ、少し軽い足取りで次の目的地へと向かうことにした。

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