出勤二日目「初出勤」
「初出勤」①
時間にして朝九時、目が覚めた。改めて自分の状況を確認する。まず最初に、
めっちゃ快眠!!!
こんなに寝たの久しぶり!というくらいぐっすり寝れた。零時を回った頃には、アイリスももう眠そうにしていたから、その時間にはもう寝る準備をしていた。それに当たり前のように感じている時間の概念だが、私が今まで過ごしてきた世界と同一であるのが救いではあった。
さて、昨日の夜はこの世界のことをいろいろ聞くことができた。
まず最初に、当たり前に魔物と呼ばれている化け物たちがその辺にいる。そいつらを倒す、及び自衛するのが当たり前で、そのために装備を整えたり、魔法を扱ったりするようだ。
どうやら、本当にゲームのような世界に放り込まれてしまったようだ。私のいた世界では、ほとんどゲームとかしたことなかったが、さすがにこんな世界にきたのなら魔法とか使ってみたい。それに、アイリスのように剣や盾も扱ってみたい。郷に入っては郷に従え、だ。
だが、そもそも素体が私とアイリス、もといこの世界の人達とは違うのかもしれない。魔法なんて習熟度で使えるものなんだろうか。
今日はそのことについても少し聞いてみたい。ここで生きていくには、クエストとやらで日銭を稼ぐ必要がありそうだ。昨日のような魔物にも襲われるだろうし、自衛する手段くらいは知っておきたい。
それから、私が別の世界からきた、ということに関しては基本的に、黙っておくことにした。理由は、いちいち私の事情を説明するのがめんどくさいというのと、もし他に私のような人間がいるとしたら、ごたごたに巻き込まれる可能性があるからだ。私の力になってくれればいいが、もし貴重な被験体みたいなのにされたらたまったもんじゃない。
よし、とガバっと起き上がる。どうやら普通に、お風呂に入ったり、化粧をしたりする文化もあるみたいだし、割と普通に生活してよさそうだ。
横に目をやると、アイリスはまだ寝ているようだ。彼女はとりあえず起きるまでそのままにしておいてあげよう。昨日の酒場のカエと呼ばれていた方に、化粧道具が借りれないか聞いてみよう。
――部屋から出て階段を下りていくと、朝だというのに酒場は盛り上がっていた。朝から酒を酌み交わしている者もいるが、どうやらメインはやはりクエストのようだ。
所謂剣士や魔法使い、そういった人間達が話をしながら、装備を整えている。私は、目的の人物に会うために受付のような場所へと向かった。
「あのー、すいません。」
控えめに声をかけてみる。すると、お酒を注いだりしていたその女性は軽快にこちらを振り向いた。
「はーい、こちらみんなのマスターカエでーす☆どうかしましたか~?」
「あ、いやあの差し出がましいお願いなんですが、お化粧の道具とか貸してもらうことはできますか?」
本当は買うための場所とかも聞いておきたいが、あまりそういうことを聞いても詮索される理由になるだろう。
「構わないですよ~。はい!どうぞ。」
と、すんなり渡してもらえた。
「お客さん見ない顔ですね~。最近この辺りにやってきた方ですか~?」
「はい、つい昨日に。あゆと申します。」
念のためニックネームでこちらを名乗ることにした。まだ自分のことをこの名で言うのには抵抗がある。
「あらそうなんですか~。ではあゆさん、お化粧終わったらまた返しに来てくださいね。」
返事をし、部屋に戻る。すると、アイリスがもう起きていた。
「あ、おはようございます師匠。早起きなんですね。」
「おはよう、そんなことないわよ。それにもう師匠呼びはいいわよ。」
少し寝ぼけ顔のアイリスに挨拶を返す。ほんとに師匠なんてものではないんだし、師匠呼びはいい。それに私がやりにくい。
「いえ!私が呼びたいからそう呼んでるだけですので!」
「そう。分かったわ。」
きっとこの子は、自分がこうと決めたことは曲げないタイプの子だろう。なんとなくそんな気がする。
今日はどうしよう、と考えていると、
「そういえば師匠、毎日こうして宿を取るんですか?」
「あ、そういえば……。」
確かにそうだ。今日はアイリスに甘えさせてもらえたが、毎日そうというわけにもいかないし、なんとかしなければいけない。借家とかあればいいが、そもそも持ち合わせがない。アイリスはそれを察したのか、
「とりあえず、今日のところはお家を探すことを考えながら初のクエストにでも行ってみましょう!それに、師匠の装備も整えないと!」
「ええ、そうね。クエストやるにしても、手ぶらで行くわけにもいかないしね。」
「はい。装備を整える分でしたら私が出しておきますので。」
「ほんとに何から何までありがとう、必ず返すから。ところでアイリスは自分の家に戻ったりしなくていいの?」
今日のところはアイリスは私に付き合ってくれたが、いつもはどうしているんだろう。できることならアイリスに甘えられるうちは、いろいろなことを教えてもらいたい。
「あー、私実は家を飛び出してきたんですよ。」
なんだって。
「え、それはまたなんで?」
もじもじと答えにくそうにする。言いにくいことなら言わなくていいよ、と言おうとしたその時、
「実は、自立したかったんです。自分の力だけで生きていけるって証明したかったんです。でも、実際は昨日も師匠がいなければ危ないところでした。」
「なるほど、そうだったのね。でも親御さんとか心配するんじゃないかしら?」
「いえ!それは大丈夫です!ちゃんと置手紙をしてきたんで!」
「なんて?」
「一人前のヴァルキリーになってきます!その時まで探さないでください!って残しておきました!」
それで大丈夫なのか。私が親なら、間違いなく心配するぞ。
「まあ、でもたまには顔出した方がいいわよ。」
「うーん、そうですねえ……。」
そんな話をしていると、遮るように少し遠いところから、
「お嬢様ー!!」
と声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます